栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
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各種疾患の基礎代謝
井上 哲夫桂 英輔
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1969 年 22 巻 1 号 p. 21-25

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抄録

1956年より1967年の12年間に基礎代謝を測定した各種疾患患者1,293例および正常健康者75例のBMR, RQの成績は次の通りであった。 (図6)
1. BMR (1) 正常対照各例の基礎代謝量 (Cal. /m2・毎時) をBoothby & Sandifordの標準値8) を基準として算出したBMRの平均は-7.3%で日本人の標準値9) (表1) を基準としたBMRの平均は-0.6%であった。 この差異は先に井上11) が指摘した通りBoothby & Sandiford標準値が日本人標準値より高いことによるもので, BMR算出の基準値としては日本人の場合, 日本人標準値を用いるのがよいと考える。
BMRの正常範囲については±10%, ±15%などの意見12) があるが, 日本人標準値を用いたBMRのM±2×SDが-11.8%-+10.6%の範囲を示したことより±10%を正常範囲とするのが妥当と考える。
(2) 甲状腺機能亢進例においてBMRの分布はいずれも正常区分以上にみられ平均値が高値を示し, 機能低下例ではいずれも正常範囲以下に分布し平均値が低値を示していたことは従来の知見5) とよく一致し, 甲状腺機能に対するBMRの診断的価値を確認した。
ただEuthyroidismと診断された223例のBMRの大半 (70%) は正常範囲にみられたが残りの30%が高値または低値を示した事実は, 本症の発生病理・病態についてさらに検索を要すると考える。
(3) 甲状腺機能亢進症以外でBMRの平均値が正常範囲をこえて高値を示した疾患は白血病と心不全であった。
白血病でBMRが亢進することはDuBois5) も記しており, Dameshek13) はこれをleukemic process自身の結果であろうと推論している。 本集計において正常範囲にある14%以外の症例がすべてそれ以上の区分に認められたことは極めて特異的であった。 心疾患においてBMRの高い場合, DuBois5) は全例に呼吸困難を認めたと記している。 本報告の症例では検査中とくにつよい呼吸困難はなかったがBMRの分布は白血病のそれと趣きを異にしていた。 これらの成績と文献より白血病と心疾患におけるBMR亢進の発現機序は基本的に異なるものと思考される。
(4) 甲状腺機能低下以外でBMRの平均値が正常範囲以下の低値を示したのはるい痩であった。 Plaut14) は低栄養でBMRが低下することを報じ, 桂15) は戦後の栄養失調症でBMRが低値を示すことを指摘したが, 基礎疾患のない低栄養, 神経性食思不振症などによるるい痩においても基礎代謝量は低下しBMRは低値を示すことを認知した。
(5) その他の大部分の疾患ではBMRの平均値は正常範囲にありその分布も半数以上が正常区分に存しその上下の区分にほぼ同数の出現率がみられた。 ただ貧血, 腎疾患, 消化器疾患では正常区分以下に正常区分以上よりやや多くの出現率があり, BMRの平均値も正常範囲内で比較的低値を示した。
(6) 悪性増殖性疾患では白血病と同傾向の成績を期待したが, BMRが高値を示したのは約30%で, 大半 (約60%) は正常区分にみられ, 約10%は正常範囲以下の低値を示した。 これは腫瘍の性状や病期がいろいろであることに由来するとも考えられるが, 悪性増殖性疾患の場合の基礎代謝は局所の増殖性過程よりも全身の栄養状態につよく影響されることを推定した。
2. RQ
RQは各疾患別に算術平均値で差異がみられても分布のばらつきが大きく, BMRのように各疾患において一定の傾向は指摘し得なかった。 これはRQが熱源栄養素の燃焼比のprofilとして表現されるため, 本集計のように疾患別に分けても各疾患にいろいろの病期があり同一疾患でも代謝相が異なるためこのような結果を来たしたものと考えられる。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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