抄録
消化器術後栄養管理において, 下痢は低たん白血症および縫合不全等, 術後合併症を併発する因子になる恐れがあるので, 経腸栄養補給の経管食が下痢誘発の原因となってはならない。従来から使用されていた天然食品のミキサー食が下痢多発のため術後の回復を遅らせる原因と考えられたので, たん白質と糖質を酵素消化した51-a (A) タイプ, さらにそのたん白質を減量し, 必須アミノ酸のバランスを整えた52-a (A) タイプの経管食を調製して食道癌術後患者に投与することによって, 下痢防止と術後機能低下時の臓器の負担を軽減することをはかり, 患者の臨床成績から, それらの術後回復時における栄養効果について検討した。
1. 術後投与時の下痢について
1) 天然食品のミキサー食投与群に対し, たん白質および糖質を酵素消化した51-a (A) あるいは52-a (A) 投与群では下痢が著しく減少した。
2) 術後の下痢率は手術部位によって異なり, ミキサー食投与群では頭頸部癌術後, 食道癌術後の順に, また51-a (A), 52-a (A) 投与群では頭頸部癌術後, 食道癌術後, 胃癌全摘術後の順に多くなった。
2. 栄養効果について
栄養効果を血清たん白値の改善傾向で考察すると, 投与たん白質量では52-a (A) に対し51-a (A) のそれは15%増, 同様にミキサー食では64%増であったが, 投与中の血清たん白値でみると, ミキサー食投与群にくらべ, 51-a (A) および52-a (A) 投与群のほうが回復が早かった。また51-a (A) と52-a (A) 投与群の比較については, 今回の臨床観察から両者の優劣を論ずるまでには至らなかった。