抄録
野菜 (ごぽう, れんこん, にんじん, だいこん, じゃがいも) をpH1~8の緩衝液および水中で98℃15分, 30分, 60分加熱後の軟化の程度とペクチン質の溶出率との関係を検討した結果, 次のとおりの知見を得た。
1) 野菜はpH4で煮たとき最も軟化しにくく, pH5以上, およびpH3以下で急激に軟化した。pH4でも長時間加熱するとにんじん, じゃがいも, だいこんは相当軟化したが, ごぼう, れんこんは軟化しにくかった。
2) 煮汁中へのペクチン質の溶出率はpH4で最も低く, pH5以上およびpH3以下で溶出率が大となり, 前報6) のペクチンの分解率とpHの関係と同じ傾向を示した。
3) 煮汁中のベクチン質はpH6以上で, トランスエリミネーションによる分解を示すチオバルビツール酸反応が明らかに陽性となった。
以上のことから, 野菜を中性, アルカリ性で煮たとき軟化するのは, ペクチンがトランスエリミネーションにより分解し溶出するためであるが, 弱酸性で軟化するのは, ペクチンが加水分解および脱塩等により溶出するためであると考えられる。
野菜を0.035Mシュウ酸ナトリウム溶液で98℃1時間抽出をくりかえして, ほとんどすべてのペクチン質を溶出させたとき, だいこん, にんじんは煮くずれを起こしたが, れんこん, ごぼうはある程度の硬さを保持していた。れんこん, ごぼうがだいこん, にんじんに比べて煮て柔らかくなりにくい, あるいは煮くずれしにくいのは, より強固な組織構造を持っているか, 細胞の接着にペクチン質以外の物質が関与しているか, ペクチン質が共有結合その他の結合で他の細胞壁物と結合して不溶性化しているためであろう。