2021 年 34 巻 3 号 p. 220-226
目的:スタチン系薬剤は骨形成タンパク質の生合成を促進することから,歯科用インプラント体を埋入する母床骨の骨量改善が期待される.本研究では,チタン板に表面処理を施すことでスタチン系薬剤が固定されることを明らかにするとともに,インプラント体埋入初期の生体組織反応を検討することを目的とした.
方法:スタチン/ゼラチン複合体(FG複合体)の固定に先立ち,チタン板にアルカリ溶液およびドパミン溶液で処理した.得られた試料は走査型電子顕微鏡での観察およびX線光電子分光分析法(XPS)により評価した.また,アルミナブラストしたチタン板に同様の表面処理でFG複合体を固定し,ラットの皮下に埋入し,皮下組織反応を調べた.
結果:アルカリ処理した試料には微細な網目状構造が観察された.XPS分析から,表面処理した試料にはドパミンを介してFG複合体が固定されることが示唆された.ラットの皮下組織反応では埋入1週ではすべての試料に接する結合組織中にリンパ球の浸潤が認められた.特にFG複合体を固定した試料で最も浸潤程度が高かったが,好中球の浸潤など重度の炎症反応は認められなかった.埋入4週ではすべての試料が線維性被膜に覆われていた.
結論:チタン板にアルカリおよびドパミンで処理することにより,FG複合体を固定できることが確認でき,そのFG複合体を固定したチタン板を埋入した皮下組織では重度の炎症反応は認められないことが示唆された.