Brånemark教授らによって提唱されたオッセオインテグレーテッドインプラントは,当初無歯顎患者に用いられた.その後,部分欠損歯列にも応用され補綴処置の一手段として広く市民権を得た.
近年インプラント周囲病変の問題が取りざたされており,病変の第一のリスクファクターは歯周病の既往と指摘されている.しかし適切な歯周治療により口腔内から感染を徹底的に除去されていれば,歯周病患者にもインプラントは応用可能である.
ひとたびインプラント周囲炎に罹患するとその治療方法が現在では確立されていない.歯周病患者においては特に厳格なサポーティブセラピープログラムが必要となる.適切な診査診断のもと,早期に病変を発見して対応することは必須である.歯周病で抜歯にいたった歯列では歯槽骨の喪失でインプラント埋入そのものが難しいが,解剖学的形態を考慮しショートインプラント,傾斜埋入,インプラント支台のカンチレバーなどを応用することにより対応可能である.
歯周インプラント補綴(Perio-Implant-Prosthesis;PIP)の応用により,歯周治療後残存する支持組織および歯列を保護して機能と審美性の改善を図ることが可能となる.
審美領域のインプラント治療における埋入時期の決定は,審美的な結果に影響を及ぼすことはよく理解されている.抜歯と同時にインプラントを埋入する即時埋入は,外科手術の回数を減らすことができ,患者の身体的負担を軽減できるかもしれない.しかしながら外科術式は難易度が高く,審美的結果に対するリスクも高いが,20年にわたる研究の結果,適応症も少しずつ変遷してきている.対して抜歯後待時してインプラントを埋入する早期埋入は,外科的なリスクを減少させ,一般的に即時埋入と比較して術後の経過も安定しているといわれている.ただし,こちらも待時期間の設定とインプラント埋入に併用する術式の選択については,常に術者を迷わせる.そこで今回,審美領域における適正な埋入時期とその術式について最新の知見をふまえて考察する.
著者らは歯周炎により歯を失った患者に対して包括的な歯周治療および口腔インプラント治療を行い,長期的な予後を評価している.
患者をそれぞれStage (Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)およびGrade (A,B,C)群に細分類した.治療結果を成功と失敗に分け,インプラント周囲骨吸収量(marginal bone loss;MBL)3 mm未満を「インプラント治療の成功」と定義した.一方,インプラント治療の失敗を4群(MBL 3 mm以上,インプラント周囲炎,インプラント周囲炎による脱落およびオッセオインテグレーションの喪失)に細分類した.インプラント機能期間,インプラント埋入本数,骨増大術の有無,インプラントブランドおよび上部構造の特徴をStageおよびGrade群間で比較・検討した.
StageⅣおよび骨増大術併用群ではインプラント周囲疾患の罹患率が有意に高かった.StageⅢ群およびGrade C群で骨増大術を併用した確率が有意に高かった.オッセオインテグレーションの喪失群はインプラント周囲炎群とは異なる特徴を示し,インプラントブランド,骨増大術の有無およびシングルインプラントによる補綴治療群で有意に高く,逆に機能期間は有意に短かった.重度歯周炎患者に対しては骨増大術の併用率および埋入本数が高くなるため,治療および術後管理の難易度とインプラント体に加わる咬合力が増すのであろう.
歯周炎のStageおよびGradeはインプラント周囲疾患のrisk indicatorである.重症歯周炎患者に対しては,精密な歯周治療およびインプラント治療が必要である.
インプラント周囲炎の治療は非外科的治療と外科的治療に大別される.インプラント周囲炎の病態はさまざまで,エックス線像における骨吸収が顕著で臨床的に感染が進行している場合でも非外科的治療で改善する場合がある.そのため骨吸収が著明に認められる場合でも,すぐに外科的治療や撤去を選択せず非外科的治療を累積的に行う.すなわちデブライドメント,殺菌洗浄,光線力学療法,抗菌剤療法などの非外科的治療を累積的に組み合わせ,インプラント周囲組織の反応をみる.そこで少しでも改善が認められれば非外科的治療を継続する.しかし,排膿が続きインプラント周囲組織の改善が認められなければ外科的治療に移行する.
外科的治療を行ううえで重要になってくるのが汚染されたインプラント表面の除染である.特に感染が長期に及び骨吸収が高度になると,インプラント体粗糙面にはバイオフィルムなどの有機物以外に強固に付着してくる石灰化物も認められる.そのため,石灰化物も含めた除染がインプラント周囲炎の治療における要となってくる.手法によっては除染効果の低いものや,治療後チタンインプラント表面に異種元素を残留させ治療法として適切でないものもある.
今回,過去30年間に行ったすべてのインプラント周囲炎治療218本に対する非外科的および外科的治療の有効性を検討し臨床的な評価を行ったところ,非外科的治療の治療有効率は60.0%,外科的治療を併用すると治療有効率は77.5%であった.
目的:スタチン系薬剤は骨形成タンパク質の生合成を促進することから,歯科用インプラント体を埋入する母床骨の骨量改善が期待される.本研究では,チタン板に表面処理を施すことでスタチン系薬剤が固定されることを明らかにするとともに,インプラント体埋入初期の生体組織反応を検討することを目的とした.
方法:スタチン/ゼラチン複合体(FG複合体)の固定に先立ち,チタン板にアルカリ溶液およびドパミン溶液で処理した.得られた試料は走査型電子顕微鏡での観察およびX線光電子分光分析法(XPS)により評価した.また,アルミナブラストしたチタン板に同様の表面処理でFG複合体を固定し,ラットの皮下に埋入し,皮下組織反応を調べた.
結果:アルカリ処理した試料には微細な網目状構造が観察された.XPS分析から,表面処理した試料にはドパミンを介してFG複合体が固定されることが示唆された.ラットの皮下組織反応では埋入1週ではすべての試料に接する結合組織中にリンパ球の浸潤が認められた.特にFG複合体を固定した試料で最も浸潤程度が高かったが,好中球の浸潤など重度の炎症反応は認められなかった.埋入4週ではすべての試料が線維性被膜に覆われていた.
結論:チタン板にアルカリおよびドパミンで処理することにより,FG複合体を固定できることが確認でき,そのFG複合体を固定したチタン板を埋入した皮下組織では重度の炎症反応は認められないことが示唆された.
腫瘍切除後に腸骨移植による顎骨再建を行い,電鋳テレスコープ義歯により口腔機能の回復を行い,長期にわたり観察を行った症例を経験したので報告する.
患者は31歳女性.物が咬めないという主訴にて受診した.下顎骨病変が疑われたため,抜歯と同時に生検を行ったところ,骨線維腫病変の疑いと診断された.腫瘍切除後,チタンメッシュトレーと腸骨による下顎骨再建術を施行し,腸骨移植部にインプラント埋入手術を行った.補綴装置の設計として,一次構造体にバーフレームを選択し,暫間補綴装置を仮着,咬合の安定を確認し,最終的に電鋳テレスコープ義歯を装着,経過観察を行った.
最終補綴装置が装着され15年が経過したが,インプラント周囲の炎症や動揺は認められず,パノラマエックス線,歯科用コーンビームCT画像よりインプラント周囲の異常な骨吸収は認められなかった.補綴装置の満足度評価では総合的に高い満足感が得られ,補綴装置の維持力も正常に発揮され,長期間にわたり良好な口腔機能を維持することができている.
目的:現在,骨増生には骨補填材が広く用いられているが,移植後の骨補填材の吸収や骨新生をエックス線画像上で評価する方法は確立されていない.そこで本研究では,歯科用コーンビームCT(CBCT)画像を用いて,骨増生部の経時的変化について検討を行った.
方法:対象は,松本歯科大学病院にてインプラント治療を目的として骨増生を行った患者のなかで,移植直後と移植6~7カ月後に同一条件でCBCT撮影を行った患者7名である(松本歯科大学研究等倫理審査委員会承認番号 0222号,0313号).画像解析にはImageJを用いた.移植直後の画像で既存骨と骨増生部との差を調べた後,骨増生部の経時的変化を検討した.結果:既存骨と骨増生部との間で違いが認められたパラメータは骨体積率,骨梁連結性の2種類であったが,骨増生部の移植直後と6~7カ月後の画像とで有意差を示したのは骨体積率のみであり,その差はわずかであった.そこで,より鋭敏に変化を抽出できる新たなパラメータとして,ROI抽出のための閾値と抽出されたROI面積との相関を求め,その最大値における変化率を「閾値-面積相関(Threshold-Area Relationship,TAR)」として算出した.骨増生部のTARは,移植直後から6~7カ月までに有意に減少した.
結論:TARの変化率は骨体積率より大きく,骨再生過程の評価に有用であることが示唆された.