2024 年 37 巻 2 号 p. 113-120
インプラント手術を成功に導くためには顎骨内の解剖学的構造を考慮することで,血管や神経,筋など周囲組織の損傷を避けることが肝要である.本論文では上顎洞と上顎結節を中心に解剖学的構造を観察し,特に上顎臼歯部でのインプラント治療におけるリスクマネージメントの重要性を考察した.歯の喪失により歯槽骨は失われ上顎骨は大きく吸収し上顎洞底も下降する.解剖献体の剖出像を通じてインプラント底部が上顎洞内に穿孔する事例を示した.上顎結節部後方から上顎洞に至る顎動脈の枝である後上歯槽動脈や上顎神経の枝である後上歯槽枝の走行経路と分布は,インプラント治療に留意すべき対象であることを示した.
解剖学的立場から,上顎臼歯部における3つのインプラント治療戦略という位置づけで垂直的骨量が少ない場合や上顎洞の存在による症例を提示した.
1.既存骨への傾斜埋入:通常方向にインプラント埋入が困難な場合,既存骨を利用して意図的な傾斜埋入を行う方法が有効である.しかし,周囲の血管・神経の損傷に注意が必要である.
2.顎堤造成術:歯槽骨の垂直的な高さが減少している場合には,顎骨を造成する方法が選択される.自家骨や骨補塡材を使用し,術後の軟組織の閉鎖にも注意が必要である.
3.上顎洞底挙上術:垂直的骨量が少ない場合には,上顎洞底を挙上する手術が選択される.側方アプローチや歯槽頂アプローチを用いるが,洞内粘膜の損傷に注意が必要である.