インプラントの歴史は古く,歯科用コーンビームCT(CBCT)などの画像検査がない時代から,多くの歯科医師は解剖学の知識を頼りにさまざまなインプラントの開発・実践に取り組んできた.インプラントが一般的に普及してきた現在,さまざまな下顎管解剖の研究がCBCTを利用して行われ,肉眼では見えない骨の構造などが可視化されるようになってきた.その一方で筆者は,過去に行われてきた基礎的な下顎管解剖の研究が忘れられてきている風潮を感じ始めた.また,近年新たに発表されている下顎管に関する論文を読み解くなかで,下顎管の解剖を再考する必要性を痛感するようになった.本稿では,過去に先人たちが築き上げてきた下顎管解剖をもう一度見直し,そのうえで新たな下顎管解剖の研究について言及し,改めてインプラントにおける下顎管解剖の重要性についてディスカッションしたいと思う.下顎管の走行,二分下顎管や臼後管,下顎管の構造,下顎管の内部を肉眼解剖,組織学,そしてCBCTによって改めて観察し,過去の研究と重ね合わせて検証することで,インプラント臨床にかかわる下顎管解剖がより深く理解できると考えられた.