抄録
当科では口腔癌に対して治療成績の向上とともに機能温存手術の可能性を探るため2005年よりCarboplatin(CBDCA)を動注薬剤として使用する超選択的動注化学療法にS-1を併用した放射線治療を行っている。今回,術前治療としてこれらS-1併用,超選択的動注化学放射線療法を行った症例について組織学的治療効果,治療成績,有害事象について検討を行った。
対象は2005年1月から2012年12月までの8年間に当科で,CBDCA超選択的動注化学療法にS-1併用放射線療法を施行した口腔癌一次症例35例のうち,術前治療として行った25例(男性21例,女性4例,平均年齢61.2歳)である。原発部位は,舌13例,下顎歯肉4例,上顎歯肉3例,頰粘膜4例,口底1例であった。T分類は,T2が11例,T3が9例,T4が5例で,病期分類は,stageⅡが5例,stageⅢが10例,stageⅣAが10例であった。
組織学的効果は,大星・下里の分類で25例中24例(96.0%)にGradeⅡb以上の効果が得られた。5年全生存率は82.1%,疾患特異的生存率は92.0%であった。有害事象としては,Grade 2以上の血色素減少2例,白血球減少3例,血小板減少1例,口腔粘膜炎22例,体重減少が3例に認められた。全例とも予定されていた治療スケジュールの完遂が可能であった。全例で原発巣制御は良好であり,機能温存を考慮した手術の可能性が示唆されたが,生存率の向上のためには頸部再発,遠隔転移の制御が重要であり,更なる治療法の検討が必要である。