日本口腔腫瘍学会誌
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シンポジウム3「口腔がん治療における放射線治療の現状と今後」
口腔がんに対する重粒子線治療
伊川 裕明小藤 昌志
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2018 年 30 巻 3 号 p. 108-115

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抄録

重粒子線は通常の放射線(X線)と比較して高い殺細胞効果と優れた線量集中性を持つ。そのため,多くの臓器が密に存在し複雑な構造を呈する頭頸部領域の,特にX線抵抗性の非扁平上皮癌に対して効果が期待される。今回は口腔がんの重粒子線治療について報告する。
放射線医学総合研究所病院では1997年4月から2016年3月に77症例の口腔がんに対して重粒子線治療が施行された。病理組織型は,唾液腺癌43例,悪性黒色腫29例,その他5例であった。経過観察期間中央値は48か月。全症例の5年局所制御率,無増悪生存率および全生存率は79.4%,34.6%および57.4%であった。晩期の有害事象としてgrade 3の放射線性顎骨壊死が11例に出現したが,すべての症例で腐骨除去術や義歯の使用によって摂食嚥下機能は保たれた。
また,国内の重粒子線治療施設4施設で行われた多施設共同後向き観察研究では,2003年11月から2014年12月までに治療された83症例の口腔がんが登録された。病理組織型は唾液腺癌が46例,悪性黒色腫27例,その他10例であった。経過観察期間中央値は30か月。全例の3年局所制御率,無増悪生存率および全生存率は81.0%,59.8%および73.3%であり,多施設研究でも良好な治療成績が確認された。晩期有害事象としてgrade 3以上の症例を16例で認めた。
重粒子線治療は口腔がんの局所進行症例,特に非扁平上皮癌などX線抵抗性腫瘍に対して有効な治療選択肢である(2018年4月から口腔の非扁平上皮癌に対して重粒子線治療は保険適用となった)。
また,口腔がんの重粒子線治療において治療前の口腔内金属の除去,治療中の周術期管理,治療後の口腔内有害事象の対応だけでなく有害事象低減を目指したスペーサの作成や治療計画への参画など歯科医師の果たす役割は大きい。

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© 2018 一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
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