抄録
最近, 膜型マトリックスメタロプロテアーゼ (MT-MMP) がMMP-2 (ゼラチナーゼA) の活性化因子としてクローニングされ, さらにヒト肺癌および胃癌におけるこのMT-MMPの発現がMMP-2の活性化とよく相関していたことから, MT-MMPによるMMP-2の活性化が癌の浸潤や転移における一つの重要な鍵を握っている可能性が示唆されるようになった。そこで本研究では, ヒトロ腔扁平上皮癌におけるMT-MMPの発現と癌の浸潤・転移との関係を明らかにする目的で, 33例の口腔扁平上皮癌組織におけるMT1-MMP, MT3-MMPおよびMMP-2の免疫組織化学的発現と癌浸潤様式およびリンパ節転移との関係について検討を行った。その結果, MT1-MMP, MT3-MMPおよびMMP-2の陽性例はそれぞれ18例 (54.5%) , 18例 (54.5%) , 15例 (45.5%) に認められ, MMP-2陽性症例のほとんど (15例中14例) にMT1-MMPも同時に発現していた。浸潤様式が1型から4D型になるにつれて, MT1-MMP, MT3-MMPおよびMMP-2の陽性症例率は高くなる傾向を示し, びまん性に浸潤する4C・4D型では大部分 (9例中8例) がMT1-MMPとMMP-2を同時に発現していた。さらにリンパ節転移群においてもMT1-MMP, MT3-MMPおよびMMP-2の陽性症例率は高値を示した。以上の結果より, MT1-MMPとMT3-MMPはMMP-2と共に口腔扁平上皮癌の浸潤・転移の過程で重要な役割を果たしている可能性が示唆された。