抄録
口腔多発癌10例について, 臨床的, 組織学的に検討した。2例は同時性であり, 残り8例における第1癌と第2癌との発生間隔は, 11か月から8年11か月におよんでいた。3例を除き, 白板症, 紅板症あるいは扁平苔癬との関連が認められた。第1癌の2例および第2癌の1例以外は, いずれもT1あるいはT2の早期癌であった。組織学的にはほとんどが高分化型で, 非び慢性の浸潤様式を示していた。第1癌で変異型P53蛋白が陽性であった4例は, 第2癌においてもいずれも陽性であり, PCNAおよびEGF-Rの発現は第1癌では7例に認められ, 第2癌ではそれぞれ8例および7例に認められた。局所再発は第1癌および第2癌においてそれぞれ2例に生じたが, 全例とも転移はなく, 最終的には制御された。結果より, 口腔多発癌は前癌病変・状態と関連しているものが多く, 悪性度は低いにもかかわらず通常の増殖能を有していることから, 前癌病変との関連があるものは, 深く切除するよりも, 広く切除することが肝要と考えられた。