抄録
新生児期に認められる粘液便,下痢,下血,嘔吐などの消化器症状に対し,ミルクアレルギーの関与が指摘され新生児・乳児消化管アレルギー(Food protein-induced enterocolitis syndrome;FPIES)や新生児ミルクアレルギーなどと呼ばれている.これらは,(1)嘔吐と下血を呈するもの(食道大腸炎型),(2)嘔吐のみ呈するもの(食道炎型),(3)体重増加不良を認めるもの(腸症型),(4)下血のみ呈するもの(直腸大腸炎型)に大別される.また,その多くは,(1)早期産児や低出生体重児に多い,(2)末梢血白血球数および好酸球数の増加,血清eosinophil cationic protein値の上昇,(3)ミルク由来の蛋白抗原に対するリンパ球刺激反応が陽性,(4)大腸内視鏡検査でリンパ濾胞増殖像を呈する,(5)病理所見として著明な好酸球浸潤を伴う,(6)ミルクアレルギーに準じた治療で改善する,(7)一過性で比較的予後は良好,などの特徴を有する.
新生児期は,特に消化機能や腸管粘膜のバリアー機能が未熟で抗原が侵入しやすい.また,新生児期に多く認められる好酸球血症は,これらの細胞が有するproteinaseにより粘膜障害を生じやすい.Proteinaseにより粘膜上皮細胞の微絨毛が障害されると,peptidaseなどの消化酵素が欠乏し食物不耐症を来す.従って新生児期のアレルギーの診断には,抗原特異性を確認することが重要で,ミルクでは下血するが加水分解乳もしくは糖水では下血しないなどの所見を確認する.抗原特異的な反応でなければ新生児一過性好酸球性腸炎(Neonatal transient eosinophilic colitis;NTEC)を含む好酸球性胃腸炎の可能性も考慮する.
下血が主症状である直腸大腸炎型では,好中球に加え好酸球などの炎症細胞浸潤を粘膜固有層や粘膜上皮層内に認める.さらに,好酸球による上皮細胞の破壊像,陰窩炎,杯細胞の過形成などを来し,好酸球性腸炎の像を呈する.特に,新生児期のものほど,好酸球浸潤は著明である.
これらの粘膜を用い炎症性シグナル分子の発現をmicroarrayで網羅的に検討したところCCL11(eotaxin-1)やCXCL-13の発現亢進を認めた.特に好酸球浸潤と関連の深いCCL11の発現は新生児期に,リンパ濾胞増殖因子であるCXCL13の発現は乳児期により強く発現しており,新生児期のより重篤な好酸球浸潤と乳児期のより強いリンパ濾胞増殖性変化を反映していると考える.一方,好酸球性食道炎で求められるようなIL-5, IL-13, eotaxin-3等の発現亢進は認められなかった.いずれも好酸球性の炎症性病変であるが,病変の主座により,それぞれの成因には違いがあるようである.