日本小児アレルギー学会誌
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シンポジウム1:アレルギーとリスクファクター・増悪因子
  • 足立 雄一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    第二次世界大戦以降,Asthma Epidemicと表現されるように喘息の罹患率が急増してきた理由として,遺伝要因よりも環境の変化が大きな影響を与えていると考えられる.アレルギーと環境との関係については,1989年のStrachanの報告以来数多く示されているが,そのメカニズムは未だ「仮説」の域を出ていない.また,今までの多くの研究はある特定の曝露因子と喘息の発症や増悪との関連を調べたものであり,これらの結果だけではエビデンスに基づいた適切な患者指導を行うことは難しい.そこで,最近様々な環境曝露因子を総体(エクスポソーム)として捉えてその影響を解析するエクスポソミックスによって,胎内から生涯に及ぶ様々な環境要因への曝露と喘息との関係が少しずつ明らかになりつつあり,今後この分野での研究が発展することが期待される.

  • ―食物との関連に注目して―
    楠 隆
    2023 年 37 巻 1 号 p. 7-11
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    本シンポジウムでは,アトピー性皮膚炎(AD)のリスクファクター・増悪因子としての食物に注目して考察を行った.食物アレルギー(FA)とADの関係性については,従来乳児期ADの発症要因として食物が重視されていたが,最近ではむしろADのFAリスク因子としての役割が重視されるようになり,ADの治療として特定の食物除去を行なうことの危険性が強調されている.食習慣,栄養(肥満)とADについては,AD児自身や妊娠・授乳中の母の食事パターンとAD発症・増悪,また肥満とADとの関連が指摘されている.その機序として,マウス実験などを通じて,食物繊維由来の短鎖脂肪酸による腸内環境の変化が皮膚の機能向上につながること,脂肪細胞由来のアディポサイトカインが肥満とADの関連に影響していること,肥満を伴うADでは皮膚の炎症反応がTh2型からTh17型に偏位していること,などが示されている.ただ,ADに限らずヒトの健康と食事との関連についてはまだエビデンスレベルが弱く,今後のさらなる進歩が望まれる.

  • 高岡 有理
    2023 年 37 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    乳幼児の食物アレルギーの感作および発症のリスクに関しては,家族歴,皮膚バリア機能の低下,環境中の食物をはじめとするアレルゲン,日光照射不足などの関与が報告されている.乳幼児期では皮膚炎を十分な治療により早期に寛解させ,経口免疫寛容を意識して離乳食を遅らせることはしないようにする.また幼児期以降は鶏卵,牛乳や小麦アレルギーの自然経過では食物特異的IgE抗体価高値の方が遷延する傾向にあるため,IgE抗体価高値の乳幼児では,少量から経口負荷試験を行い食べられる範囲があれば摂取する必要最小限の除去治療を行う.アナフィラキシーのリスク因子は,アレルゲンの摂取量やその特性によるもの,アナフィラキシー時における患者の対処や運動や薬剤などの増悪因子に関する患者行動,免疫応答や内分泌などの患者自身のもつ反応性,感染,喘息,年齢などの内因性及び外因性の要因に大別される.患者にはアレルゲン曝露や増悪因子に注意するよう指導し,アナフィラキシー時にアドレナリン自己注射や救急受診などの適切な行動がとれるように支援する.

  • ~過去から学び,コロナとともに生き,予防への希望~
    吉田 幸一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    幼少期における微生物叢との接触の増加がアレルギー発症に予防的に働く概念,いわゆる衛生仮説は1989年に報告された疫学研究が始まりである.この調査では同胞,特に年長同胞が多いほどアレルギー性鼻炎の有病率が低下し,その効果は成人期まで波及している結果を示した.

    その後30年が経ち,本邦ではより衛生的な生活を送るようになり,さらに少子化もとどまる気配がなくなり,同胞数と成人期のアレルギー性鼻炎有病率の関連は明らかではなくなってきた.そして新型コロナウイルス感染流行対策として,我々はソーシャルディスタンスを保ちマスクをつけて外出するようになり,さらに衛生的な生活をおくっている.ただし,これらの感染対策は必ずしもアレルギー性鼻炎に対して悪影響を及ぼすものばかりではないようである.この感染対策による小児アレルギー疾患の発症に対する影響はまだ明らかにはならないが,現在示されている知見からアレルギー性鼻炎に対する発症や増悪因子としての影響を考えてみたい.

シンポジウム3:アレルギー予防についての話題
  • 西村 龍夫, 福岡 圭介
    2023 年 37 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    近年の調査から,乳児期にアレルギーの原因となる食物を除去するより食べさせていく方が食物アレルギー(以下,FA)の発症に抑制的に働くことが分かってきた.FAへの対応は治療よりも予防にシフトしていくと思われる.しかしハイリスク乳児への食事指導に際しては安全を担保しながら実施する必要があり,その方法を早期に確立することが求められている.

    我々は鶏卵,ミルク,小麦,大豆,ピーナッツ,そばの6種食物の粉末と整腸剤を混合したMixed powder(以下,MP)を作り,アトピー性皮膚炎の乳児を対象にプラセボと比較した多施設共同ランダム化試験を行った.その結果MPを投与した群はプラセボ群と比較してFAのエピソードを有意に減少させることができた.副反応に関しては投与後の顔面の発赤等,軽微なものを経験したが重篤なものはなかった.

    乳児期早期から皮膚所見を観察し,湿疹のある例にはスキンケアの指導と並行し,早期から慎重に食物を与えることでFAの発症を予防できる可能性があると考えている.

  • 池田 政憲
    2023 年 37 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    受動喫煙は,小児喘息の発症と重症化のみならず呼吸機能低下のリスクを増加させ,総IgEの上昇と食物および吸入アレルゲンの感作リスクを高める.妊娠中の母親の喫煙は,胎児の肺成長を阻害し出生時からの呼吸機能低下をもたらし,学童期以降の呼吸機能低下と重症喘息のリスクを増加させる.妊娠中の母親の受動喫煙においても,臍帯血の制御性T細胞はエピジェネティックな機序により減少を生じ,乳児期からのアトピー性皮膚炎とアレルゲン感作,喘鳴のリスクが上昇する.受動喫煙は,タバコ煙曝露により疾患リスクが増加するのみではなく,受動喫煙防止を法制化する介入によって疾患リスクが減少することも科学的根拠が確立している.公共の場を全面禁煙にする「タバコの規制に関するWHO枠組条約(FCTC)」に基づく罰則を設けた法制化により人々が守られることが世界標準になっている.FCTCを実現し,胎児期から成人期へ一貫した無煙環境が適切に整備されることによって,受動喫煙によるアレルギー疾患リスクは抑制ないしは予防できると考えられる.

  • 高増 哲也
    2023 年 37 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    アレルギーは,本来無害な相手に対する免疫反応であり,その主な場となっているのは体の内と外との境界面である皮膚と粘膜である.腸内細菌叢は宿主であるヒトと共生関係にあり,腸管の免疫細胞に作用して免疫反応に影響を及ぼし,腸管上皮に作用してバリア機能にも影響している.アレルギー疾患の発症関連因子には腸内細菌叢の関与を示すものが多く,腸内細菌叢はアレルギーの発症に関与しているということができるが,腸内細菌叢への介入によりアレルギーを予防できるかという問いへの答えは簡単ではない.システマティックレビューによっては,プロバイオティクスによるアトピー性皮膚炎の予防効果があるとされているものもある.しかしながら現在のアレルギー疾患関連のガイドラインでは,いずれもエビデンスが不足しており,プロバイオティクス,プレバイオティクスを予防の手段とすることは推奨できないとされている.現時点では腸内細菌叢への介入条件が明確とはいえないが,今後の検討の成果に期待したいところである.

シンポジウム6:交差反応 成人食物アレルギーについて
  • 千貫 祐子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    動物感作から始まる食物アレルギーの例として,α-Gal syndrome,pork-cat syndrome,bird-egg syndromeなどが挙げられる(Table 1).α-Gal syndromeは血液型A型またはO型の成人から高齢者に多く,pork-cat syndromeはネコの飼育歴がある小児から成人に好発し,bird-egg syndromeはトリを飼育している成人女性に好発する.いずれも,適切な診断,適切な対処によって,治癒しうる疾患である.本稿では動物感作から始まる食物アレルギーのうち,特にα-Gal syndromeとpork-cat syndromeとbird-egg syndromeについて,診断法と対処法を紹介する.

  • 近藤 康人
    2023 年 37 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    花粉症患者が花粉アレルゲンと交差反応するタンパク質を含む植物性食物を摂取して即時型アレルギー症状を起こす病態を花粉-食物アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergy syndrome)と呼ぶ.多くは花粉や果物に含まれるBet v 1ファミリーの交差抗原性によって引き起こされる.Bet v 1ファミリーのアレルゲンは加熱や胃酸でIgEエピトープが消失するため,加工食品は食べられ,症状は口腔内に限局するOral allergy syndrome(OAS)の臨床病型をしめす.

    一方,ヒノキ科花粉症患者に果物によるOASが南欧で報告され,原因としてGibberellin-regulated protein(GRP)の関与が報告された.元来,重篤な桃アレルギーの原因として報告されたGRPは低分子ながらS-S結合が6対あるため加熱や消化酵素に耐性を有し,腸管で感作されると考えられている.しかし最近スギ花粉のアレルゲン(Cry j 7)としても報告されたことから,PFASへの関与について注目されている.

  • 猪又 直子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 60-69
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    ジベレリン制御タンパク(GRP)は,重症の果物アレルギーのアレルゲンとして知られ,現在,モモPru p 7,梅Pru m7,オレンジCit s 7など5種が国際登録されている.GRPは熱や消化酵素に安定であり,運動などの二次的要因の関与より食物依存性運動誘発アナフィラキシーの臨床型もとる.顔面,特に眼瞼浮腫や喉頭閉塞感の発現頻度が高く,アレルゲンソース単位の特異的IgE抗体測定の偽陰性に注意が必要である.近年,スギやヒノキの花粉由来GRPが同定され,それらとの交差反応により花粉―食物アレルギー症候群が生じるのではないかとの意見がある.納豆アレルギーは,摂取後約半日経って発症する,遅発性アナフィラキシーの臨床像をとることが多く,全身性蕁麻疹,呼吸困難,さらには,ショックに至ることも稀ではない.主要アレルゲンは,納豆の粘稠成分であるポリガンマグルタミン酸(PGA)である.PGAの感作経路は,クラゲ刺傷時のクラゲPGAの経皮曝露によると推察されている.納豆アレルギー患者の多く(約90%)がマリンスポーツ歴を有することもその根拠の1つである.

シンポジウム8:食物アレルギー・アレルゲンごとに学びます
  • 平口 雪子
    2023 年 37 巻 1 号 p. 70-74
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    甲殻類とは節足動物門に属する甲殻亜門(Crustacea)の一群で,エビ・カニ・シャコなどが含まれる.2022年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査では全年齢における食物アレルギーの原因食品として8位,初発例の原因食品として7~17歳で1位,18歳以上で2位と,甲殻類アレルギーの多くは学童期以降で発症する.即時型症状が多く,食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因食品としても頻度が高い.予後についての報告はほぼないが,耐性獲得は少ないと考えられている.甲殻亜門の主要アレルゲンはトロポミオシンとされるが,他にアルギニンキナーゼ,ミオシン軽鎖,筋形質カルシウム結合タンパクなどが報告されている.これらのコンポーネントは節足動物門でアミノ酸配列の相同性が高く,交差抗原性は甲殻亜門内だけでなく,節足動物門の鋏角亜門・六脚亜門と甲殻亜門間でも確認されている.粗抽出抗原特異的IgE抗体検査は感度,特異度共に不十分で,コンポーネント特異的IgE抗体検査の有用性が検討されているが地域差など課題も多い.

  • 杉浦 至郎
    2023 年 37 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    2020年に行われた全国調査では「何らかの食物を摂取後60分以内に症状が出現し,かつ医療機関を受診したもの」の原因食品として木の実類は第3位,同年の愛知県のアナフィラキシー症例全数調査では15歳未満の原因食品として木の実類は第1位の頻度であり,いずれも経年的に増加傾向が明らかである.木の実類の中ではクルミ,カシューナッツ,アーモンド,マカダミアナッツの順に頻度が高い.木の実類アレルギーの診断に関してはコンポーネント特異的IgE抗体価の有用性が多く報告されている.特に2Sアルブミンに属するコンポーネントは診断性能が高く,クルミのJug r 1及びカシューナッツのAna o 3は保険適用となっている.その95%以上がアレルギー症状を示すと考えられるカットオフ値はJug r 1で0.98UA/mL,Ana o 3で2.20UA/mLと報告されている.またアーモンドの11Sグロブリンやマカダミアナッツの7Sグロブリンに対する特異的IgE抗体価もその診断有用性が報告されている.木の実類アレルギーの治療として経口免疫療法の有効性が報告されている.

  • 中島 陽一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    魚の主要アレルゲンであるパルブアルブミンは筋形質タンパク質で,ほぼ全ての魚種に存在する.魚種間で交差反応性を持つため,魚アレルギー患者は複数の魚種に症状を有することが多い.ほかのアレルゲンとしてコラーゲンやアルドラーゼ,エノラーゼなど10種類以上報告されている.鑑別疾患としてヒスタミン中毒とアニサキスアレルギーが重要である.魚アレルギーの診断には特異的IgE抗体価だけでは判断できない場合も多い.最終的には経口食物負荷試験で確認する必要がある.魚はビタミンDの主要な供給源であり摂取可能な魚種を増やすことは栄養面でも大切である.魚だし,マグロ缶詰は摂取可能な場合が多い.マグロ,カジキ,カツオといった赤身魚はパルブアルブミンの含有量が少ないため,最初に試す候補となる.新しい治療として低アレルゲン化魚を用いた免疫療法が試みられている.

  • 堀向 健太
    2023 年 37 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    日本において1~6歳に即時型症状で発症することが多い魚卵アレルギーは,重要なアレルゲンである.イクラアレルギーが全体の約95%を占め,タラコアレルギー,シシャモの魚卵アレルギーの報告が少数あるにとどまる.魚卵は卵黄タンパクの前駆体であるビテロジェニンを構成するβ'-コンポーネントが主要アレルゲンと考えられている.イクラアレルギーは特異的IgE抗体価により食物経口負荷試験の陽性を予測可能と報告されている.一方で,タラコアレルギーの陽性予測には,イクラ特異的IgE抗体価とタラコ特異的IgE抗体価の比率が有用であるという報告がある.イクラ・タラコ以外の魚卵アレルギー以外の魚卵アレルギーに対する研究は極めて限られており,学校給食でしばしば提供されるシシャモの卵に関する検討も少ない.海外からは,最近,キャビアアレルギーの報告が散見されており,摂取状況による地域差があると考えられる.概して魚卵アレルギーの検討は不十分であり,今後さらなる研究の進展が期待される.

原著
  • 渡邊 優, 今井 孝成, 大川 恵, 髙木 俊敬, 本多 愛子, 前田 麻由, 岡田 祐樹, 神谷 太郎
    2023 年 37 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    【目的】重症ピーナッツアレルギーに対する少量の食物経口負荷試験(OFC)を検討した報告は少なく,至適負荷量を明らかにする.

    【方法】2017年1月から2021年12月に,昭和大学病院小児科で総負荷量0.1gまたは0.3gのピーナッツOFCを初めて行い,ピーナッツ即時歴あり,またはAra h 2特異的IgE抗体価が4.0UA/mL以上を対象とした.OFCは40分間隔2分割法(1/3-2/3)で行った.

    【結果】対象は51例,0.1g群33例,0.3群18例であった.群間で背景因子,特異的IgE抗体価に有意差はなかった.OFC陽性率は0.1g群33.3%,0.3g群72.2%で有意に0.3g群が高かった.閾値量別の症状グレード比較では,閾値0.03g(0.1gの1/3量)は,閾値0.1g(0.1gの3/3量と0.3gの1/3量)と0.3g(0.3gの3/3量)より症状グレードが低い傾向があった.

    【結論】重症ピーナッツアレルギーのOFC総負荷量は0.1g以下が望ましい.

  • 青田 明子, 勝沼 俊雄, 藤多 慧, 鈴木 亮平, 相良 長俊, 近藤 康人, 赤司 賢一
    2023 年 37 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    マカダミアナッツ摂取後,アナフィラキシー症状を呈した症例2人を経験した.症例1は症状出現前にマカダミアナッツオイル含有保湿剤を1年使用しており,経皮感作が疑われた.2例ともに皮膚テスト陽性であった.マカダミアナッツの抗原蛋白抽出を行い,イムノブロッティングにて患者血清と反応させたところ,症例1では20kDa,50 kDa,60kDa,と65 kDa付近に,症例2では18kDa,20 kDa,50 kDa,60kDaに陽性バンドを検出した.このうち60kDa,65 kDaのタンパク質についてはこれまでIgE結合の報告はない.今後はより詳細なマカダミアナッツの抗原蛋白・コンポーネントの同定とオイル成分の分析により,経皮感作の関与を探求する必要がある.

  • 田中 柚菜, 川端 彩由, 本山 結恵, 楠 隆
    2023 年 37 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    【背景及び目的】保育所における食物アレルギー(FA)対応の変化を比較する.【方法】2021年8月に滋賀県内の全認可保育所を対象に質問紙式調査を行ない,2013年に実施した同一地域・同一手法の調査結果と比較した.カイ二乗検定でP<0.05を有意差ありとした.【結果】2021年は261施設(全体の74.6%,対象施設の全児童30,047名)が解析対象となった.2013年の結果と比べて,厚生労働省作成による生活管理指導表を用いている施設の割合や,アドレナリン自己注射液(エピペン)所有児童在籍施設の割合は有意に増加しており,エピペン預かり施設の割合も増加していた.過去1年間の誘発症状経験施設の割合は有意に減少したが,グレード2以上の誘発症状経験施設の割合には有意差がなかった.【結論】エピペンの普及が広がっており,FA児に対する対応は改善傾向にあると考えられる.一方で,誘発症状の経験施設の割合は減少していたが重症誘発症状の経験施設の割合は変化がなく,重症例への対策強化の必要性が示唆された.

  • 吉原 伸弥, 藤田 雄治, 宮本 学, 安藤 裕輔, 加藤 正也, 吉原 重美
    2023 年 37 巻 1 号 p. 113-119
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    苔癬化はアトピー性皮膚炎(AD)の慢性病変であり,主に掻破を繰り返すことにより皮膚が肥厚した結果生じる.苔癬化は難治性とされ,ステロイド軟膏が効きづらい病変である.我々は,小児期発症のAD患者に対し,デュピルマブを投与し頭頸部・上肢・下肢・体幹の総合的な皮膚病変の改善に有効であるかを苔癬化を中心とし検証したためその結果を報告する.対象は,小児期にADを発症し15歳以上でデュピルマブによる治療を開始した4症例である.診療録を用いて後方視的に集計した.4症例の治療開始前,治療1か月後,治療2か月後,治療6か月後,治療12か月後の4症状(紅斑,浮腫/丘疹,掻破痕,苔癬化)別のEczema Area and Severity Index(EASI)スコアの値をまとめ推移を評価した.デュピルマブ開始時の苔癬化のみのEASIスコアは3.2-13.2であったが,投与開始から4-12週間でEASIスコアの改善を認めた.デュピルマブは,小児期発症のAD患者の全身の皮膚苔癬化病変に対して有効であった.

  • 吉川 英樹, 井上 博貴
    2023 年 37 巻 1 号 p. 120-125
    発行日: 2023/03/20
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル 認証あり

    魚類の主要アレルゲンであるパルブアルブミンは,ほぼ全ての魚種に存在し,魚類アレルギー患者は複数の魚種にアレルギー症状を呈することが多く,複数の魚種の特異的IgE抗体価が陽性となりやすい.今回,測定し得た魚種の特異的IgE抗体価は全て陰性で,ブリとカンパチにのみアレルギー症状を呈した1例を経験したので報告する.症例は10歳男児.食物アレルギー既往なし.給食でブリ,カンパチを摂取後,校庭を走っている最中に全身の蕁麻疹,腹痛が出現した.生ブリと生カンパチのprick-to-prick testでは,生ブリは陽性,生カンパチは疑陽性であった.焼いたブリの食物経口負荷試験(OFC)では,全身の蕁麻疹,腹痛,煮たカンパチのOFCではアナフィラキシーが誘発された.自験例は,両魚種以外の魚類は摂取可能で,測定し得た魚類の特異的IgE抗体価が全て陰性であったことから,パルブアルブミンとは異なる両魚種に特異的なアレルゲンが原因と考えられた.限られた魚種にのみアレルギー症状を呈する患者が存在し,注意を要する.

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