日本小児アレルギー学会誌
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原著
  • 高瀬 貴文, 金井 怜, 西田 敬弘, 一木 洋祐, 有馬 智之, 岩井 郁子, 山田 慎吾, 杉田 和也, 長尾 みづほ, 徳田 玲子, ...
    2024 年 38 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    【緒言】ペクチンはよく用いられる食品添加物である.カシューナッツ(CN)とペクチンの交差感作が報告されているが,あまり認識されていない.

    【症例】1歳10か月の女児.1歳3か月時にミックスナッツ摂取後の急性蕁麻疹とCN,クルミ特異的IgE陽性から,これらのナッツアレルギーと診断された.今回,フルーツグミ摂取後に発症した全身蕁麻疹と活気不良のため救急搬送を受けた後,原因不明のアナフィラキシーとして当院に紹介された.グミの食品成分はペクチン,水飴,砂糖,数種類の果実エキスであり,ペクチン以外は症状なく食べられることを確認,ペクチンアレルギーを疑い,ペクチンに関連するアレルゲン抽出物でプリックテストと好塩基球活性化試験を行った.いずれもペクチンに陽性反応を認め,ペクチンアレルギーと診断した.

    【考察】CNアレルギー患者の中に,ペクチンアレルギーを合併する例がある.CNアレルギーは近年増加傾向であり,原因不明のアナフィラキシーがCNアレルギー患者に発症した場合はペクチンアレルギーを疑う必要がある.

  • 石田 しづえ, 中川 幸恵, 川口 雄一, 武藏 学
    2024 年 38 巻 1 号 p. 8-17
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    【目的】食物アレルギー(FA)対応の改善策を提案する.

    【方法】保育施設の給食責任者に質問紙調査を実施した.

    【結果】対応食の栄養量は給与栄養目標量に対して充足していない8.6%,考慮していない29.6%と多かった.生活管理指導表使用施設は53.8%と少なかった.栄養評価の未実施施設は39.1%と多かった.保護者との継続面談実施施設は73.6%であり,初回面談に比べ少なかった.施設職員から嘱託医に対し,FAに関する相談を行う施設は22.2%と少なかった.給食責任者によるFA対応の実施状況の評価は,「かかりつけ医との連携」「嘱託医との連携」の項目が特に低かった.

    【結論】FA対応の課題は対応食の栄養量の配慮不足,生活管理指導表の使用不足,嘱託医との連携不足,栄養評価不足,継続面談の未実施であった.改善策として,情報共有システム構築のために保育施設から嘱託医へ生活管理指導表の提供を必須条件とし,さらに保育施設から栄養評価等の記載欄を追加することを提案する.

    保育施設の給食責任者にFA対応の質問紙調査を行った結果、対応食の栄養量、栄養評価、生活管理指導表の使用、継続面談、嘱託医への相談の不足が課題として挙げられた。改善策として、生活管理指導表について、保育施設から嘱託医への提供を必須にすること、保育施設からの記載欄の追加を提案する。 Fullsize Image
  • 吉川 英樹
    2024 年 38 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    galactose-α-1,3-galactose(α-Gal)症候群は,マダニ咬傷を介して糖鎖α-Galに経皮的に感作されることにより,α-Galを含む獣肉によって遅発性にアレルギー症状が誘発される症候群である.本症は感作源であるマダニの回避により寛解する可能性が期待されている.今回,マダニ回避指導後にα-Gal特異的IgE値が低下し,本症が寛解したと考えられた1例を報告する.症例は15歳女子.牛肉が原因と考えられたアナフィラキシーを呈し,α-Gal特異的IgE値が陽性であったことから本症と診断した.マダニ咬傷歴を有し,屋内外で多数のネコを飼育していたことから,マダニ回避目的でネコの屋外飼育を指導した.α-Gal特異的IgE値は,指導前の3.61から17か月後には0.40に低下した.25か月後に行った牛肉負荷試験が陰性であったため寛解したと考えられた.本症例のα-Gal感作にはネコが重要な役割を担っており,本症例がマダニに刺咬されにくくなったことにより本症が寛解した可能性が考えられた.

  • 伊藤 靖典, 長尾 みづほ, 村井 宏生, 福家 辰樹, 手塚 純一郎, 西本 創, 佐藤 さくら, 足立 雄一
    2024 年 38 巻 1 号 p. 24-31
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    目的:アクティブラーニングを用いた小児アレルギー教育セミナーにおいてオンライン式が対面式と同様の学習到達度,行動変容を促すのか明らかにする.

    方法:対面式とオンライン式のセミナーを実施し,セミナー前,終了後,6か月後に参加者にアンケート調査を行い,学習到達度(40項目),小児アレルギー診療行為の実施(15項目)について評価した.

    結果:対面式に参加したのは217名,オンライン式は142名であった.セミナー終了後の学習到達度は,セミナー前と比較し双方ともすべての項目で有意な上昇が見られたが,対面式でハンズオンを実施した項目についてはオンライン式よりも学習到達度が高かった.6か月後の診療行為について,すべての項目がセミナー前と比較し向上が見られ,15項目中2項目ではオンライン式参加者のほうが対面式参加者よりも実施率が有意に高かった(P<0.05).

    結語:オンライン式は対面式と同様の学習到達度,その後の行動変容が認められた.一方,実際に医療機器に触れるハンズオンの有用性も明らかとなった.

    小児アレルギー疾患においてオンライン式と対面式による教育効果について評価した。その結果、研修修了6ヶ月後の行動変容(アレルギー検査の実施率など)については、対面式とオンライン式でほぼ同等であった. Fullsize Image
  • 本田 朋子, 細田 愛, 冠城 祥子, 津村 由紀, 明石 真幸
    2024 年 38 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    アニサキスによる即時型アレルギーは,成人では多くの報告があるが小児の報告はほとんどない.今回,学童期に発症したアニサキスによるアナフィラキシーを経験したため報告する.

    8歳男児.イカの刺身,シメサバなどを食べた2時間後から,アナフィラキシー症状を認めた.アドレナリン筋肉注射を行い症状は速やかに改善した.血液検査でアニサキス特異的IgE 54.4 UA/mLであり,食事に含まれる他の魚介類の特異的IgEは陰性だったことから,アニサキスアレルギーと診断した.

    本症例では,児が低年齢から日常的に生の魚介類を摂取し,家族が釣った魚を自ら調理する機会が度々あったことが,学童期にアニサキスアレルギーを発症した一因となった可能性があると考えた.アニサキスアレルギーは,本症例のようにアナフィラキシーに至る重篤な症例も多く,アニサキスが寄生する魚介類は多岐に渡るため,診断意義は大きい.魚介類摂取後にアナフィラキシーが出現した場合,小児でもアニサキスアレルギーを鑑別する必要がある.

シンポジウム 1:疫学データーからアレルギーマーチを考える
  • 吉田 幸一
    2024 年 38 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    日本小児アレルギー学会の疫学委員会や喘息死委員会は,これまで会員の皆さまから多くの情報を提供していただき,学術集会や学会誌にてその結果を報告してきた.1990年から行われた喘息死例の登録・解析による喘息死レポート,2006年から実施されている喘息重症度分布経年推移に関する多施設検討は喘息の重症度と治療の経年的な変化を報告している.これらの調査により小児喘息の動向が明らかになり,それらの調査結果は小児気管支喘息治療・管理ガイドラインに反映され日常診療へ役立てていただいている.本稿ではこれらの調査を振り返り,アレルギー疾患発症後の視点でアレルギーマーチを見直してみたい.

  • ―成育コホート研究と子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)から―
    齋藤 麻耶子, 山本 貴和子, 福家 辰樹, 大矢 幸弘
    2024 年 38 巻 1 号 p. 42-50
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    アレルギー疾患が急増しているが,関連する因子の全貌はまだ明らかとなっていない.アレルギー疾患について,経年的に変化を捉え,曝露とアウトカムの因果推論を行うのに,観察研究として最もエビデンスレベルが高いのは,母集団に近づけた一般集団を対象として,後方視的ではなく,バイアスを防いで前方視的に追跡する出生コホート研究である.代表的な出生コホート研究として,国立成育医療研究センターにおける成育コホート研究と,日本で初めての全国規模の研究である子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)が実施されている.これらの調査研究から,日本人におけるアレルギー疾患発症の実態や,母体曝露も含めた様々な関連因子,また思春期を超えたアレルギーマーチの実態,昨今注目されている花粉・食物アレルギー症候群(PFAS)のアレルギーマーチにおける位置づけなど,様々な知見が明らかとなった.本稿では,これらの報告に基づいて,今までで明らかになってきた日本の子ども達のアレルギーマーチの実態や関連因子について,できる限りまとめたい.

  • 加藤 泰輔, 伊藤 靖典, 足立 雄一
    2024 年 38 巻 1 号 p. 51-57
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    アレルギー素因を有する個体が,原因抗原と発症臓器を異にしながら,複数のアレルギー疾患を発症していく現象をアレルギーマーチと言う.乳児期のアトピー性皮膚炎(AD)がその起点であるとされる一方,アレルギーマーチの経過をたどる小児は少なく,個々の異なるクラスターを反映した集団レベルの有病率パターンを観察しているに過ぎないとの報告もある.我々が行った全国アレルギー疾患医療拠点病院の職員とその家族を対象としたアレルギー疾患有病率調査では,アレルギー疾患の有病率は1歳まではAD,その後加齢とともに食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎の順に高くなっており,この発症年齢やピーク年齢の推移はアレルギーマーチを呈していると考えられた.しかしながら,各アレルギー疾患をすべて合併する典型的なアレルギーマーチの経過をたどる小児は3.0%であり,アレルギー疾患の発症やその進展にはAD以外に様々な因子が関与していることが示唆された.

  • 西間 三馨
    2024 年 38 巻 1 号 p. 58-64
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    WJSAAC(West Japan Studies of Asthma and Allergies in Childhood)は1982年の第I相試験の西日本11県の小学児童5万5千人から,2022年の第V相3万人まで10年ごとに同一手法・同一地区・同一小学校1~6年生で行われてきた.現在,解析中であるがその概略は,気管支喘息(BA)の有症率は第III相の6.5%をピークに減少に転じ第V相が最も低値となった.合併する他のアレルギー疾患はアレルギー性鼻炎(AR)が最も高く,次いでアトピー性皮膚炎(AD),アレルギー性結膜炎(AC),花粉症(P)であった.

    我が国の小児アレルギーの前半世紀はBAの臨床・研究が中心であったが,合併するAD,AR,AC,食物アレルギー(FA)などにもエネルギーが注がれる様になり,いわゆる総合アレルギーとして取り組まれるようになった.その背景がWJSAACのアレルギー疫学結果にも伺われる.

    有症率に変化を与える現在の種々の環境は変化が大きく,治療・管理法も含めた疫学手法の改変を要しているが,正確な継続した疫学調査はアレルギー疾患の将来計画を立てる為にも必須の作業であり国レベルの議論が急がれる.

シンポジウム 5:COVID19 が小児アレルギー疾患に与えた影響を考える
  • 岡田 賢司
    2024 年 38 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    世界保健機関(WHO)は新型コロナワクチンの接種推奨を2023年3月28日に更新した.その中で,健康小児(生後6か月~17歳)に対するワクチン接種は優先順位が低いとして,国ごとの状況を加味した上で小児へのワクチンの必要性について検討することを奨めている.

    わが国では新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染症法上の位置づけが,2023年5月8日に5類感染症に変更となり,感染者の全数届出や濃厚接触者への行動制限は廃止された.COVID-19対策が緩和されつつある社会情勢を受けて,日本小児科学会では,国内の小児に対するワクチン接種の意義について再検討した.

    国内小児に対するCOVID-19の脅威は,依然として存在することから,これを予防する手段としてのワクチン接種は,学会としての推奨は変わらず,生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨したことを紹介した.

  • ~小児アレルギー診療,研修への影響
    磯崎 淳
    2024 年 38 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
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    COVID-19の発生は社会全体に大きな影響を与え,様々な変革をもたらしてきた.発生当初をはじめ医療機関,小児診療,小児アレルギー診療やアレルギー研修会にも影響を与えた.COVID-19発生以降の当院でのアレルギー診療,アレルギー研修会の変遷を振り返ることで,その影響を検証した.COVID-19発生直後の2020年はアレルギー患児の受診が激減した.以降,経年的に増加に転じ,気管支喘息入院患児をはじめとして現在までに以前の水準に戻りつつある.2020年のアレルギー患児の減少は大きかったものの,小児科全体の減少よりは少なかった.他方,医師,看護師が新型コロナウイルスに感染・クラスターの発生に伴い,病棟閉鎖や受診制限がなされた.また,対面でのアレルギー研修会の実施が中止・延期することを余儀なくされた.対面での実施に代わり,World Wide Web(Web)や動画配信による研修会支援が広く行われるようになった.これらinformation technology(IT)技術を用いた研修会は,今後も主要なツールになると考えられる.

  • 杉浦 至郎
    2024 年 38 巻 1 号 p. 76-80
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    COVID-19の流行拡大は食物アレルギー診療にも影響を与えた.第1回緊急事態宣言時を中心に食物経口負荷試験の中止や実施件数制限などが行われたが,宣言解除後は早期に回復した.アナフィラキシーを含む即時型アレルギー症状への対応は患者・家族としては概ね適切であったと考えられるが,医療提供側に不十分な対応が存在した.経口免疫療法はより安全な方針が選択されるようになった.食物アレルギー発症は影響を受けていないと考えられる.

  • 是松 聖悟
    2024 年 38 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    小児の気管支喘息は呼吸器感染症によって急性増悪することが知られているため,COVID-19のパンデミック当初は,気管支喘息の悪化が懸念されていた.しかし,系統的レビューでもCOVID-19が気管支喘息を悪化させる証拠は得られておらず,小児気管支喘息発作入院サーベイランスでも急性増悪による入院が減少していること,入院例のうちSARS-CoV-2陽性例は少なく,人工呼吸管理例も報告されなかった.

    一方,気管支喘息のある小児の保護者を対象に実施したインターネット調査では,パンデミックに入って,ほとんどの小児の体調は好転したが,長期管理薬が投与されていない小児,受動喫煙のある小児の体調は悪化したことが明らかになった.

    これらから,COVID-19は,急性期には気管支喘息を悪化させる感染症とは言い難いが,パンデミックを経て,日常のコントロールや受動喫煙防止など,改めて気管支喘息管理を啓発する必要性が示唆された.また,今後,COVID-19に罹患した気管支喘息の小児の長期予後を検討する必要がある.

シンポジウム 8:移行支援医療と total allergist
  • 松原 知代
    2024 年 38 巻 1 号 p. 86-92
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    小児期発症の慢性疾患を有する患者が成人になる場合に,小児期から成人期に移行する際の「移行期医療」の概念とその方向性が2014年の日本小児科学会からの提言によって本邦で初めて示された.さらに新しい概念である「成人移行支援」は,単なる医療のあり方の変化だけでなく,患者が社会においてその人なりに自律・自立した成人になることを目的に,医療だけでなく健康・福祉という広い視点から提供されるべきものである.この「成人移行支援」を推進するための提言が,主要4項目(基本姿勢,生涯を見据えた包括的支援,転科支援,体制整備及びその他の必要な対応)について計20項目あげられて,2023年に日本小児科学会から発表された.「成人移行支援」の重要性について,小児科医だけでなく小児を診療するすべての診療科医が熟知すべきである.

  • 伊藤 靖典, 徳永 舞, 小池 由美
    2024 年 38 巻 1 号 p. 93-98
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    小児期に発症するアレルギー疾患の多くは成人期に移行する.そのため,成人への移行支援として医療提供の整備と自立(自律)支援が必要である.患者は複数のアレルギー疾患を合併することが多いため,成人になったときに基本診療科が複数になること,また食物アレルギーにおいては成人領域で専門とする医師が少ないことから,トランスファー(転科)が困難な状況がある.そのため,自立(自律)支援では保護的な立場から,ヘルスリテラシーを獲得させた上で自己決定を尊重させる医療への移行が必要となる.特に食物アレルギーでは成分表示を理解し,緊急時のアドレナリン自己注射薬の使用等を自分で実施するために計画的なプログラムが必要である.

    アレルギーセンターは地域・行政との連携だけではなく,院内においては複数の基本診療科や多職種との連携を担う役割がある.移行支援においては小児科と成人科とのスムーズな移行に資する情報共有,多職種による自立(自律)支援・福祉,就学/就労支援などに関わることが期待される.

  • 滝沢 琢己
    2024 年 38 巻 1 号 p. 99-103
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    Total allergistは,自身の診療科のアレルギー疾患については軽症から難治重症例を診療し,他科のアレルギー疾患についても軽症あるいは合併症の範囲であれば診療可能なアレルギー専門医を指す.小児科では複数のアレルギー疾患を発症し併存することが多く,また,それらは相互に影響するため,診療にあたっては複数の疾患を念頭においたアプローチが重要である.小児アレルギー疾患の有病率や重症度は,心理的ストレスや,社会的状況との関連が指摘され,身体的(バイオ)側面のみならず,心理(サイコ)・社会(ソーシャル)面にも焦点をあてたバイオサイコソーシャルモデルで捉える包括的な診療アプローチが重要である.成人診療科への移行にあたっては,重症難治例に対して疾患横断的,全人的な診療が行える体制が十分に整っていないという課題がある.

シンポジウム 10:小児アレルギー性鼻炎診療の Unmet needs:発症予防も含め
  • 増田 佐和子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 104-108
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    ウイルス性上気道炎とそれに続発する鼻副鼻腔炎は,小児によくみられる疾患であり,時にアレルギー性鼻炎との鑑別に苦慮する.鑑別診断には,症状,局所所見,鼻汁細胞診がポイントとなる.鼻副鼻腔炎では鼻閉,粘膿性鼻漏,後鼻漏,湿性咳嗽,頭痛などの症状がみられる.特に湿性咳嗽は鼻副鼻腔炎患児の60%以上に認められる重要な症状である.局所所見では,鼻腔の膿性鼻汁や咽頭後壁に付着する粘膿性後鼻漏を観察する.ファイバースコープを用いれば中鼻道から後鼻孔に流れる粘膿性分泌物を観察することができる.鼻汁細胞診による好中球や好酸球の観察も有用であり,症状や所見と併せて総合的に診断を行う.現在「小児アレルギー性鼻炎診療の手引き」の作成が進んでおり,今後アレルギー性鼻炎の診断,治療への活用が期待される.一般的に小児の鼻副鼻腔炎は,抗菌薬を中心とした薬物療法やセルフケアを含む局所処置により治癒しやすい.鼻症状をみたとき,感染性かアレルギー性かを常に考えながら,きめ細かく対応することが必要である.

  • 八代 将登
    2024 年 38 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    小児のアレルギー性鼻炎が近年急増している.アレルギー性鼻炎の症状には鼻汁・鼻閉・くしゃみなどがあり,日々の症状を軽減するために患児や保護者が家庭で行う鼻症状ケア方法を習得しておくことは非常に有用である.鼻症状ケアの最終目標は患児自身が自発的に鼻症状ケアを実行できるようになることであり,実践するにあたり3つのコツがある.一つ目は「簡単であること」である.1回だけの説明では理解することが難しい複雑な処置や手技は望ましくない.二つ目は「楽しんでできること」である.楽しんで行えたり褒められて嬉しかったりすると患児自身が積極的に参加するようになる.三つ目は「習慣にすること」である.鼻症状ケアの手技や処置が「簡単に」,「楽しく」行うことが「習慣化」につながる.鼻症状ケアは鼻アレルギー診療の全ての段階で有用であると位置付けられる.習慣化には小児アレルギーエデュケーターやアレルギー疾患療養指導士を含めた医療関係者間で指導方針を共有するとともに,家庭における保護者や保育施設や学校における先生らとも連携することが重要である.

  • 德田 玲子
    2024 年 38 巻 1 号 p. 117-122
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    限られた診察時間で,効率的に臨床症状を把握することは必須であり,的確な治療へ促すことに繋がる.アトピー性皮膚炎ではSCORADやEASIによる重症度評価法,気管支喘息では最近1か月のコントロール状態を簡便に客観評価できる質問票やスパイロメータやピークフローによる呼吸機能評価など日常診療で活用されているものがある.しかしアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎に関しては小児科医にとって簡便に活用出来る評価表が少ない.スギ花粉症舌下免疫療法が,ダニ通年性アレルギー性鼻炎に対する製剤とともに12歳未満の小児にも適応が広がり治療効果をどのように評価するべきなのかといった課題も出てきている.

    鼻アレルギー診療ガイドラインに紹介されている症状による重症度や薬物療法を加味したスコア,QOL質問票も加えたJRQLQ,国際的なガイドラインであるARIA,Face scaleやVASを活用した検討などを紹介し,小児のアレルギー性鼻炎や花粉症を診療するためどのような評価表が求められるのかを考察したい.

ワーキンググループ報告(シンポジウム10「小児アレルギー性鼻炎診療のUnmet needs:発症予防も含め」で発表)
  • 岡藤 郁夫, 近藤 康人, 二村 昌樹, 長谷川 俊史, 亀田 誠, 大嶋 勇成, 海老澤 元宏, 吉原 重美
    2024 年 38 巻 1 号 p. 123-137
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/03/21
    ジャーナル 認証あり

    目的

    我が国における小児アレルギー性鼻炎診療実態と問題点を明らかにする.

    方法

    日本小児アレルギー学会および日本小児耳鼻咽喉科学会にメールアドレス登録のあるそれぞれの会員を対象にインターネット調査を実施した.

    結果

    803名から回答を得た.診断に関しては,小児科医は局所所見より検査をより重視し,耳鼻咽喉科医は検査より局所所見をより重視していた.鼻のケア指導(鼻のかみ方,鼻をすすらないこと,鼻の洗い方,点鼻薬の使い方)は小児科医も耳鼻咽喉科医も実施する医師が半分程度しかいなかった.鼻アレルギー診療ガイドラインは,小児科医は耳鼻咽喉科医ほど活用しておらず,特に小児科の非アレルギー専門医は持っていないという回答が2割あった.小児科医は耳鼻咽喉科医より診察時間を多く取っていた.5歳未満の幼児の感染症との鑑別に小児科医は耳鼻咽喉科より困難を感じていた.

    結論

    診断方法において診療科の特徴が大きな影響を及ぼしていた.鼻症状に対するケア指導を実施している医師は診療科を問わず半分以下だった.

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