抄録
開心術中心筋保護法の進歩に伴い小児心臓手術の手術成績は著しく向上したが, 長時間心停止を余儀なくされる重症例における虚血再灌流障害の回避はなお重要な課題である. 従来小児心筋保護領域では, 基礎的研究における心筋保護法の有効性に関して相反するデータも多く, 臨床的にも年齢, 疾患独自の病態, 手術方法, 虚血時間, 術後管理の多様性により心筋保護法ごとの有効性の評価は容易でない. 最近これら小児領域にも心筋保護法に関する無作為比較臨床試験が実施され, 生化学的心筋障害の観点から長時間心停止症例やチアノーゼ性心疾患などの限られた対象領域における血液心筋保護法の優位性が明らかにされた. しかしながら各心筋保護法の臨床的意義の解明には, 複雑心疾患を含む各種疾患・術式・年齢などの詳細な層別解析を伴う多施設大規模試験が必要である. 一方, 未熟心筋における成熟心筋と異なる生理学的特性や術前の心室負荷, チアノーゼ心筋障害合併の観点から小児心筋に特化した心筋保護方式/保護液の研究も不可欠であり, 近年, 小児用心筋保護液(Del Nido solution)の臨床的有用性が報告されている. さらに外科的心筋保護法の革新的概念として従来のdepolarized arrestにかわるAdenosine-lidocaineによるNormokalemic polarized arrestの優れた心筋保護効果が明らかにされるとともに, 心筋保護効果を増強する付加的戦略としてIschemic Conditioning(Pre・Post)の有用性が実証され, 小児心臓外科領域において臨床応用が開始されている.