2023 年 39 巻 4 号 p. 192-199
RAS/MAPK経路を構成する因子の過剰活性化は,RASopathyなる先天性疾患を引き起こし,心奇形,特異顔貌,骨格異常,知的障害といった多系統の組織に機能・形態異常を引き起こす.肥大型心筋症類似心肥大はRASopathyの特徴的な心臓表現型であり,その発症は心不全死および突然死リスクと強く相関する.RASopathy関連心筋症は小児循環器病学の重点疾患群であるが,その病態の全容は未だ明らかになっていない.特異的治療の臨床開発も滞っており,臨床医学と基礎研究の協奏による心臓ケアの質向上が,求められている.本総説では,RASopathy関連心筋症について基礎~早期臨床開発の現存するエビデンスを紹介しながら,今後,我々が埋めるべきナレッジ・ギャップを俯瞰する.さらに,RAS/MAPK経路異常を共通の分子病態にもつ「癌」と「RASopathy」の対比という視点から,RASopathy関連心筋症のcellular pathologyを再評価し,疾患特異的治療開発のヒントを探る.