日本小児循環器学会雑誌
Online ISSN : 2187-2988
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ISSN-L : 0911-1794
39 巻, 4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
Reviews
  • 相馬 桂, 八尾 厚史
    2023 年39 巻4 号 p. 171-178
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    高齢成人先天性心疾患(ACHD)において単純短絡の頻度は高い.最も頻度が高い疾患は心房中隔欠損症(ASD)である.高齢者のASDでは長年の右心負荷から,心不全や弁膜症,心房細動の合併率が増加し,病態が複雑となる.カテーテル治療の普及に伴い高齢ASD患者でも閉鎖を行うようになってきているが,心不全や心房細動を来したASDの閉鎖においてはまず十分に心不全や心房細動の治療を行ってから閉鎖に臨む必要がある.高齢ASD患者では右心負荷のみではなく,左室拡張能低下を伴っており閉鎖時,閉鎖後慢性期を通して鬱血に注意が必要である.心室中隔欠損症(VSD)は高齢ACHDにおいて2番目に頻度が高い.成人までVSDが残存している症例は小欠損もしくは肺高血圧合併であるが,加齢による影響から左室コンプライアンスが低下し心不全を引き起こすリスクが高くなるため注意が必要である.動脈開存症(PDA)も,カテーテル治療が導入されることによって高齢者の治療対象者が増加した比較的頻度の多い疾患である.

  • 松本 正太朗
    2023 年39 巻4 号 p. 179-191
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    先天性心疾患の管理,特に周術期管理において感染管理と神経管理は大きな役割を占めている.個別性の強い先天性心疾患の循環管理や呼吸管理と異なり,感染管理・神経管理の原則は,ユニットに入室している患者全体に一律に適応される.また,医師だけでなく多職種の関与を必要とすることが特徴である.種々の医療関連感染において,有効で継続可能なバンドルによる予防,病原体・感染経路・宿主の3要素に加えて緊急度と重症度に基づく治療が必要である.神経管理において,管理目標の設定,妥当性が保証された評価ツールによる客観的評価,評価に基づく滴定が求められる.これらを最適化するために,各集中治療室の実態に合わせたバンドル・プロトコルの検討,確実な実施・モニタリング,加えて定期的な見直しと改善が必要である.

  • 中釜 瞬, 山﨑 允喬, 伊藤 正道, 中釜 悠
    2023 年39 巻4 号 p. 192-199
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    RAS/MAPK経路を構成する因子の過剰活性化は,RASopathyなる先天性疾患を引き起こし,心奇形,特異顔貌,骨格異常,知的障害といった多系統の組織に機能・形態異常を引き起こす.肥大型心筋症類似心肥大はRASopathyの特徴的な心臓表現型であり,その発症は心不全死および突然死リスクと強く相関する.RASopathy関連心筋症は小児循環器病学の重点疾患群であるが,その病態の全容は未だ明らかになっていない.特異的治療の臨床開発も滞っており,臨床医学と基礎研究の協奏による心臓ケアの質向上が,求められている.本総説では,RASopathy関連心筋症について基礎~早期臨床開発の現存するエビデンスを紹介しながら,今後,我々が埋めるべきナレッジ・ギャップを俯瞰する.さらに,RAS/MAPK経路異常を共通の分子病態にもつ「癌」と「RASopathy」の対比という視点から,RASopathy関連心筋症のcellular pathologyを再評価し,疾患特異的治療開発のヒントを探る.

  • 石田 秀和
    2023 年39 巻4 号 p. 200-208
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    ダウン症候群は様々な先天性心疾患を合併する染色体異常として,小児循環器医や小児心臓外科医にとっては馴染みの深い症候群である.一方で,ダウン症候群ではどのような機序で先天性心疾患を合併しやすいのか,また,どのような機序で肺高血圧を合併しやすいのかなど,多くの臨床上の疑問があるにもかかわらず,ヒト21番染色体トリソミーが心臓発生や肺血管病態形成に及ぼす影響の分子メカニズムについては未だ不明な点が多い.本総説では,総論として,これまでのコホート研究におけるダウン症候群の臨床像を報告するとともに,各論として,前半ではダウン症候群に合併する先天性心疾患,後半では肺高血圧症に関するこれまでの基礎研究について紹介したい.

  • 高月 晋一
    2023 年39 巻4 号 p. 209-216
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    肺動脈性肺高血圧症においては,肺動脈の攣縮やリモデリングに伴う右心室の後負荷上昇による右室機能不全が主要な死亡原因である.肺高血圧治療の主軸は肺血管拡張薬であり,右心室をターゲットにしたものではない.このため,右室機能の評価が肺高血圧の治療効果判定において重要な位置付けと考えられる.右心室は左心室の心筋線維の走行や形態とは異なり,コンプライアンスは高く容量負荷に対して耐えられるが圧負荷に対しては脆弱である.右心室は肺高血圧による圧負荷に対し心筋壁を肥厚させることで代償するが,進行すると代償機構が崩れ血行動態は破綻することになる.これに加え,重症の三尖弁逆流が容量負荷を来し右室の駆出力を低下させ,心拍出量をさらに低下させる悪循環に陥る.このように,右室の収縮能と肺動脈圧の後負荷は互いに関連をしており,この関係性を右室肺動脈カップリングと呼ぶ.本稿では,肺動脈性肺高血圧症における右室肺動脈カップリングについて概説する.

  • 長友 雄作
    2023 年39 巻4 号 p. 217-226
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    小児循環器領域において,コイルを中心とした血管塞栓術は多く行われており,近年のデバイスの開発により適応疾患は拡大してきている.主に先天性心疾患の多種多様な解剖の血管に対応する必要があり,血管解剖ごとにリスクや注意点を考えながら治療戦略を立てるのが重要である.本稿では基本的な手技から注意すべき血管解剖への塞栓方法について当施設の考え方を含めて解説する.

  • 石垣 瑞彦
    2023 年39 巻4 号 p. 227-235
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    経皮的心房中隔欠損閉鎖術が国内で始まり,約20年を迎えようとしている.現在では,開胸のいらない低侵襲な治療法として,幼児から高齢者まで幅広い年代で標準治療として施行されている.対象は,二次孔型の心房中隔欠損であり,一次孔型,静脈洞型,冠静脈洞型は適応外である.また二次孔型でも欠損孔の位置や大きさによっては対象外となるため,経食道を含めたエコーでの詳細な診断が重要になる.現在,国内では3種類のデバイスが使用可能で,その特徴を十分理解したうえで,重大な合併症となる心侵食や脱落に十二分な注意を払い治療にあたる必要がある.

症例報告
  • 天尾 理恵, 小川 陽介, 犬塚 亮, 平田 康隆, 小野 稔, 緒方 徹
    2023 年39 巻4 号 p. 236-243
    発行日: 2023/12/31
    公開日: 2024/06/30
    ジャーナル フリー

    体外設置型補助人工心臓(ventricular assist device: VAD) EXCOR Pediatric (EXCOR)装着後,心臓移植に至った小児患者のリハビリテーション(リハビリ)の経験を報告する.拡張型心筋症の7歳男児.上気道症状,腹痛にて近医を受診,左心の著明な拡大と収縮不良を認め当院転院.転院後7日目に持続性心室頻拍(ventricular tachycardia: VT)へ移行しVAD (Rota flow)装着,翌日EXCORへ移行した.術後4日目よりリハビリ開始.著しい筋力低下を認めていたため段階的に離床を進め,術後140日目には1 kmの連続歩行も可能となった.術後7カ月に倦怠感が増悪,術後11カ月には重度の大動脈閉鎖不全症(aortic insufficiency: AI)と両心不全の増悪を合併,術後20カ月からは持続性VTのまま経過,AIと持続性VTによりフォンタン循環様の病態となり,リハビリにおける運動負荷の調整を要した.持続性VTとなって以降は自覚・他覚症状,心・肝機能の状況に応じて運動負荷を調整した.術後716日に心臓移植術を実施,移植術後は速やかに離床を進め,1日1.5 km程度の歩行能力,体力を獲得し,移植術後34日で自宅退院に至った.長期の移植待機期間中に右心不全,不整脈といった合併症に伴い,VADサポート下であっても心不全が増悪する可能性がある.リハビリにより更なる心不全増悪を招かないよう,運動負荷の調整を行うことが重要であった.

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