抄録
エナメル基質タンパク質の一つであるアメロジェニンは,エナメル質の石灰化において重要な役割を担う分子として注目されてきた。最近,膜貫通型受容体LAMP-1 への結合が報告され,間葉系細胞の増殖や分化に影響を与えるシグナル分子としての側面が次第に明らかにされつつある。そこで骨系細胞の分化調節に対するアメロジェニンの作用を明らかにするために,胚発生において多面的な作用を示し骨形成にも深く関与するWnt シグナル伝達経路に対する影響を調べ,T7 ファージディスプレイシステムを用いてアメロジェニンと相互作用する骨芽細胞由来タンパク質の検索を行った。その結果,アメロジェニンは骨芽細胞および歯根膜細胞のWnt/β-カテニンシグナルを活性化することが明らかとなった。同時に骨基質タンパク質の発現上昇を認めたことから,アメロジェニンの骨芽細胞に対する分化誘導能が確認された。また,ファージディスプレイによる検索の結果,メタロプロテアーゼ組織阻害因子(TIMP-2)を同定した。そこでMMP 基質とMMP およびTIMP の反応系における相互作用を検討したところ,アメロジェニンはMMP 活性に対するTIMP の阻害作用を抑制することが分かった。以上の結果は,アメロジェニンがシグナル分子として骨系細胞の分化を誘導すること,さらにMMP 活性の調節機能を有する石灰化制御因子として重要な役割を担う可能性を示唆している。