小児歯科学雑誌
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総説
口腔内細菌に対する宿主免疫応答と疾患への関与
桜井 敦朗新谷 誠康
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2012 年 50 巻 1 号 p. 22-30

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抄録
非常に複雑な細菌叢を有する口腔において,口腔領域の上皮は常に細菌の存在を認識する環境下にある。しかし,上皮組織はそのような細菌に対して生体深部への侵入を防ぐ障壁として機能しながらも,通常は口腔内の常在菌に対して強い炎症性応答を起こさない状態に制御されていると考えられている。一方,口腔領域の常在菌であるA 群レンサ球菌は幅広い病態を惹起する病原菌でありエンドソームを介して宿主細胞に侵入し,その結果宿主細胞の炎症性免疫応答が亢進することが報告されている。本稿の研究で,A 群レンサ球菌は細胞内への侵入後もすぐに消化されず細胞質内に脱出している菌が認められ,そのような菌はオートファゴソームと呼ばれる膜組織に改めて捕捉されていることが明らかとなった。しかし,細胞内に侵入する性質自体が上皮細胞の免疫応答機構に異常を生じ,炎症性応答を起こす原因になりうると考えられる。近年著者らは,強い病原性を持つA 群レンサ球菌だけでなく,口腔内に多く存在するビリダンスレンサ球菌の一部にも上皮細胞に侵入する能力を有する菌株が存在することを明らかにした。口腔内に細胞内侵入性菌が多数存在すると,その菌株自体が強い病原性を生じなくても上皮細胞の免疫応答に変化が生じることから,口腔内の他の微生物や外来異物に対して通常生じないような過剰な炎症性応答を生じる原因になると考えられる。
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© 2012 日本小児歯科学会
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