2022 年 60 巻 3 号 p. 129-134
低ホスファターゼ症は先天性骨疾患であり,組織非特異的アルカリホスファターゼの欠損により引き起こる疾患である。乳歯の早期脱落がみられることが多く,歯科受診が診断の起点になることがある。乳歯の脱落は栄養摂取や生活面で問題となることから,定期的な管理が必要である。われわれは低ホスファターゼ症保因者の男児の症例を経験したので報告する。
母親は低ホスファターゼ症の診断のもとに加療されている。
患児は小児科での検査でALPの低値を指摘されているが遺伝子検索は実施されていない。初診時年齢は5歳3か月の男児であった。咬合発育段階はHellmanのⅡA期を呈し,下顎右側乳中切歯の動揺が顕著であった。デンタルエックス線画像では下顎右側乳中切歯は歯根が残存しているものの歯槽骨の吸収が顕著であった。パノラマエックス線画像では歯槽骨のラインはやや低く,乳臼歯の歯髄腔の拡大がみられた。
全顎的に口腔清掃状態が不良でありプラークコントロールを実施した。受診1か月後には下顎右側乳中切歯の自然脱落がみられた。
5歳4か月時に脱落した隣在歯の動揺が顕著であることから小児義歯により同部の保隙を開始した。上顎および下顎前歯部にはプラークの付着がみられ,母親に仕上げ磨きの指導を実施した。
継続的な管理を継続し,5歳10か月時には下顎右側中切歯の萌出が確認できた。