小児歯科学雑誌
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60 巻, 3 号
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原著
  • 秋友 達哉, 新里 法子, 臼田 桃子, 亀谷 茉莉子, 日下 知, 浅尾 友里愛, 小笠原 朋子, 中野 将志, 岩本 優子, 太刀掛 銘 ...
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 3 号 p. 93-98
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    血友病は易出血を主徴とする疾患であり,罹患者に観血的な歯科処置を行う際には術前に血液凝固因子の補充を行うなどの対応が必要となる。そのため,血友病患児に対しては,定期的な歯科受診により口腔疾患の予防に努め,可能な限り観血的処置を避けるよう努めることが重要となる。今回われわれは,当院小児血友病包括外来に参加した血友病患児を対象として,血友病患児の口腔衛生状態に関する実態調査を行った。

    対象とした血友病患児は,2歳2か月から17歳11か月まで(平均年齢9歳6か月)の男児30名,女児1名の計31名であった。齲蝕罹患状態を同年代の健常な児童と比較すると,血友病患児は齲蝕保有者率(df・DMF者率)および平均齲蝕歯数(dft・DMFT)において高い値を示した。また,歯周状態に関しては,多くの血友病患児に歯肉出血や歯石沈着等の所見を認めた。質問紙を用いた調査より,医科および歯科の両主治医から歯科受診の必要性について説明を受けた血友病患児の割合は,それぞれ半数以下にとどまっていた。

    以上の結果から,血友病患児の口腔衛生状態は同年代の健常な児童と比較して齲蝕罹患状態・歯周状態ともに不良な状態であった。また,医療従事者からの口腔疾患の予防に関する啓発についても不十分であった。今後は,血友病患児が良好な口腔衛生状態を獲得・維持できるよう,医療連携体制の一層の充実が望まれる。

  • 齊藤 桂子, 佐橋 喜志夫, 鷲野 嘉映, 橋口 大輔, 森川 和政
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 3 号 p. 99-107
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    睡眠時鼻閉塞と上顎可撤式床装置の着用実態との関連性を検討する目的で,鼻閉塞を客観的に評価できる仰臥位の鼻腔抵抗値と被験者の保護者が間接的に評価する小学生版子どもの眠りの質問票(Japanese Sleep Questionnaire for elementary schoolers:JSQ-ES)の睡眠時呼吸障害に関する5項目の各得点,総得点について,上顎可撤式床装置の着用群69名と非着用群31名の検討を行った。その結果,仰臥位での鼻腔抵抗値は,着用群が,0.51±0.13 Pa/cm3/s,非着用群が0.70±0.16 Pa/cm3/sで,非着用群が有意に高い値を示した(p<0.05)。また,JSQ-ESにおける睡眠時呼吸障害に関する5項目に関するアンケート調査では,平均総得点が着用群10.5±3.2点,非着用群が12.2±4.0点であり,非着用群が有意に高かった(p<0.05)。また,座位の鼻腔抵抗値が仰臥位のそれより大きい値を示した比率は,非着用群が着用群に比べ有意に高いことも判明した。仰臥位の鼻腔抵抗値とJSQ-ESにおける睡眠時呼吸障害に関する5項目の各得点,総得点について相関関係を調べると,非着用群において正の相関関係を認めた。以上のことから,睡眠時の鼻閉塞が装置着用を困難にする可能性が示唆された。また,JSQ-ESにおける睡眠時呼吸障害に関する5項目の各得点,総得点は,睡眠時の鼻閉塞を客観的に評価する仰臥位の鼻腔抵抗値の結果を反映していることも判明した。上顎可撤式床装置を使用した咬合誘導の際に効果的な治療を行うためにも,鼻閉塞の診断が今後推奨されると考える。

  • 中嶋 真理子, 森田 浩光, 鳥巣 浩幸, 岡田 賢司, 小島 寛, 岡 暁子
    原稿種別: 原著
    2022 年 60 巻 3 号 p. 108-115
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    本邦での抗菌薬薬剤耐性(Antimicrobial Resistance;AMR)対策の推進のためのアクションプランが発表されたことを受け,当院においても2016年よりAMR対策に取り組んでいる。そこで小児歯科外来(以下,小児歯科)における経口抗菌薬使用について経年的な変化を調査した。データの標準化には,外来患者1日・1,000人あたりの抗菌薬使用密度(Daily Outpatients Dose;DOD)を用いた。さらに,小児科外来(以下,小児科)との比較も行い,抗菌薬使期間(Days of Therapy;DOT)も指標として用いた。

    抗菌薬処方は,AMR対策前は第2・3世代セファロスポリン系が全体の95%以上であったが,対策後は減少に転じ,2019年以降はペニシリン系が95%以上であった。各年度のDOD値も減少傾向をみせ,2021年度は最も低い値を示した。

    DOD,DOTの2種の指標を用いた小児科との比較では,抗菌薬種類の割合において,小児歯科からの処方では2つの指標が示す傾向に大きな違いを認めないが,小児科では異なる傾向となることがわかった。これは,小児歯科では処方日数などが画一的に決定されていることに起因すると考えられた。

    今回の調査によって医療従事者へのAMR対策教育の効果を確認することができた。更なる抗菌薬の適正使用を推進するためには,継続して定期的にAMR対策教育を続けていく必要がある。

症例報告
  • 君 雅水, 中山 寿賀子, 山崎 知恵子, 神庭 優衣, 島村 和宏, 加川 千鶴世
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 3 号 p. 116-121
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    双生歯は発生頻度が0.05~0.35%程度と比較的まれな形態異常とされており,正常歯と過剰歯の歯胚が1つに融合したものと定義されている。双生歯が萌出障害や歯列不正,機能障害などの原因になっている場合は正常歯と過剰歯の結合および歯髄の共有など,総合的に検査・診断し治療計画を立てることが重要である。

    今回われわれは上顎右側側切歯部の埋伏双生歯に対して,過剰歯部分の分割抜去により自然萌出した症例を経験したので報告した。

    患児は8歳10か月の定型発達児で,上顎右側側切歯の萌出遅延を主訴に近医歯科を受診したところ,精査と加療を目的に当科を紹介された。CT画像から上顎右側側切歯の歯冠近心部に硬組織の癒合が観察され,隣在する正常歯に欠損がなく,歯冠が正常歯に比較して大きいため双生歯と診断した。歯髄腔の共有はみられなかったことから,癒合部分の分割抜去により自然萌出を促すこととした。全身麻酔下にて埋伏双生歯の分割抜去を行った結果,2か月後に自然萌出が認められた。双生歯の癒合部分は象牙質に低石灰化を認め,う蝕に罹患しやすいことが報告されているが,患児の歯口清掃状態は不良なため,指導と経過観察を続けてきた。同部位は10歳0か月時,反対側と同程度の位置まで萌出し,歯周検査においても比較的良好な状態で推移した。以上のことから萌出を障害している歯冠の一部を除去することで自然萌出が期待できることが示唆された。

  • 加藤 那奈, 宮尾 琴音, 中村 浩志, 中村 美どり, 松田 厚子, 森山 敬太, 正村 正仁, 大須賀 直人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 3 号 p. 122-128
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    小児期の過剰歯は上顎前歯部に多くみられるが,下顎小臼歯部の過剰歯は比較的まれである。小臼歯部の過剰歯は前歯部に比べ発育が遅く,診査・診断が困難である。今回,われわれは下顎右側小臼歯部にみられた過剰歯の症例を経験したので報告する。

    患児は近医歯科で齲蝕歯精査のために撮影したエックス線撮影で小臼歯部に過剰歯様の硬組織を認め当科に紹介された。

    初診時年齢は4歳8か月であり,咬合発育段階はHellmanのⅡA期を呈し,下顎左側乳臼歯部には歯髄腔に近接する齲蝕が確認できた。

    パノラマエックス線画像では下顎右側小臼歯の歯胚の上部に過剰歯様の硬組織を認めたが,歯胚が形成段階であり小臼歯と過剰歯の詳細が不明確であった。

    まずは臼歯部の齲蝕治療を優先し,定期的な管理を実施し,小臼歯の発育を待って交換期に対応することとなった。

    8歳8か月時に患児の咬合発育段階はⅢB期となった。パノラマエックス線画像では第一乳臼歯および第二乳臼歯には歯根の吸収がみられ,CBCT画像において過剰歯や隣在歯の詳細が確認でき,小臼歯の萌出障害をきたしていることから過剰歯を抜去した。

    術後の経過は良好であり,2か月後には下顎右側第二小臼歯の萌出が確認できた。

  • 宮尾 琴音, 加藤 那奈, 青木 紗衣佳, 谷田 幸代, 松田 厚子, 森山 敬太, 正村 正仁, 大須賀 直人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 3 号 p. 129-134
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    低ホスファターゼ症は先天性骨疾患であり,組織非特異的アルカリホスファターゼの欠損により引き起こる疾患である。乳歯の早期脱落がみられることが多く,歯科受診が診断の起点になることがある。乳歯の脱落は栄養摂取や生活面で問題となることから,定期的な管理が必要である。われわれは低ホスファターゼ症保因者の男児の症例を経験したので報告する。

    母親は低ホスファターゼ症の診断のもとに加療されている。

    患児は小児科での検査でALPの低値を指摘されているが遺伝子検索は実施されていない。初診時年齢は5歳3か月の男児であった。咬合発育段階はHellmanのⅡA期を呈し,下顎右側乳中切歯の動揺が顕著であった。デンタルエックス線画像では下顎右側乳中切歯は歯根が残存しているものの歯槽骨の吸収が顕著であった。パノラマエックス線画像では歯槽骨のラインはやや低く,乳臼歯の歯髄腔の拡大がみられた。

    全顎的に口腔清掃状態が不良でありプラークコントロールを実施した。受診1か月後には下顎右側乳中切歯の自然脱落がみられた。

    5歳4か月時に脱落した隣在歯の動揺が顕著であることから小児義歯により同部の保隙を開始した。上顎および下顎前歯部にはプラークの付着がみられ,母親に仕上げ磨きの指導を実施した。

    継続的な管理を継続し,5歳10か月時には下顎右側中切歯の萌出が確認できた。

  • 普天間 優貴, 外山 敬久, 酒德 晋太郎, 普天間 拓, 青木 郁江, 林 勇輝, 名和 弘幸
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 3 号 p. 135-140
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    上顎右側臼歯部に臼傍歯を認めた症例を経験したので,その概要と臨床経過を報告する。

    初診時年齢12歳1か月の女児。近医で定期的な検診を受けていたところ,上顎右側第一大臼歯の萌出遅延および過剰歯の存在が疑われたため紹介来院となった。口腔内診察より上顎右側に萌出途上の大臼歯を認め,Hellmanの咬合発育段階はⅢB期であった。パノラマエックス線写真より,上顎左右側の大臼歯は1歯のみで,それ以外の大臼歯の歯胚を認めなかった。上顎右側第二乳臼歯と大臼歯間の頰側に認めた過剰歯を疑う像は,歯科用コーンビームCTによる三次元的な精査によって,大臼歯とは独立した臼傍歯であることがわかった。臼傍歯は上顎右側大臼歯の萌出を妨げている可能性があり,咬合に機能することが期待できないこと,齲蝕を誘発する可能性があることを考慮し,抜歯を行った。また抜去した臼傍歯を組織学的に検討したところ,臼傍歯は隣接した大臼歯と同時期に形成された可能性が高いことが示唆された。

  • 金井 恵未, 宮新 美智世, 上原 智己, 和田 奏絵, 大石 敦之, 長弘 茂樹, 柿野 聡子, 岩本 勉
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 60 巻 3 号 p. 141-147
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル 認証あり

    外傷により受ける損傷のうち歯根破折は,歯の硬組織のみならず歯髄,歯根膜,歯槽骨にも多様な損傷が生じ,特に歯頸部歯根破折は保存困難となる症例もまれではない。歯根破折歯の保存の可能性を高めることは,健全な永久歯列形成にとって重要な意義がある。われわれは,外傷により歯頸部に複数の歯根破折が生じ,偏位と動揺が認められた症例の17年後の経過を評価したのでその概要を報告する。

    患児は初診時年齢11歳7か月の男児で,転倒し下顎オトガイ部を下から強打した際に生じた歯の動揺を主訴に当科を受診した。2は動揺と打診痛を認め,デンタルエックス線画像にて歯頸部付近に複数の破折線を認めた。即日に当該歯の整復固定を行い,口腔衛生指導を徹底し管理を行った結果,破折部のエックス線不透過性が高まり安定した経過を辿った。初診から約5年11か月間管理を行ったが,海外生活のため中断となった。しかし,その約12年後に当科を再受診したため,受傷歯の再評価を行ったところ,同歯は生活歯であり,かつ正常な歯周組織および生理的動揺度を維持していた。本症例の長期間の保存を可能にした要素は,長期にわたる口腔衛生管理だけでなく,咬合や歯周組織の健全性を阻害しない範囲での再破折予防策として,固定を成長発育に応じて適用している点であったと評価した。

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