抄録
著者らは,1精査希望を主訴として来院した初診時7歳7ヵ月,女児のX線診査中に,低位乳歯に遭遇した.患歯はEであり,肉眼的にはE相当部歯槽頂部に瘻孔様の排膿孔を認めるのみで,X線学的には,歯冠部近心側3分の2まで崩壊され,ほぼ楕円形をした齲蝕様X線透過性亢進像を呈するもので,一部に明瞭な歯根膜腔を欠くところが認められる.
光顕的には,崩壊歯冠部を被覆する患歯歯周組織は慢性肉芽性炎症像を呈し,歯冠部象牙質表層部は鋸歯状を呈し,その歯髄側には骨様象牙質の添加が著明に認められる.さらに歯髄組織はほとんど認められず,歯根膜様組織所見を呈している.
電顕的には,歯冠部象牙質部には明瞭なるlaminationを示す斜断面も誤められる.
以上の臨床所見,光顕的所見,電顕的所見より,患児の年齢における顎骨は骨成分が少なく未完成の状態であるが,こういう条件下でEは萌出を開始した.萌出後に近心側咬合面部が齲蝕に罹患し,それと時期を同じくして何らかの外的刺激が加わり,さらに隣在歯の萌出力,周囲組織の成長圧等により沈下していったものと思われる.