小児歯科学雑誌
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上顎左側乳中切歯逆生埋伏の1症例
外木 徳子藤居 弘通町田 幸雄
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1985 年 23 巻 2 号 p. 536-542

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抄録

我々は,5歳0ヵ月の男児において上顎左側乳中切歯の逆生埋伏という極めて珍しい症例を経験した。患児は家族歴,既往歴および全身的発育状態において異常が認められなかった。初診時の口腔内診査では,上顎左側乳中切歯部の歯齦が歯槽頂部において僅かに陥凹し,唇側が多少膨隆している他は,周囲組織に異常な所見は見られなかった。レントゲン診査の結果,上顎左側乳中切歯の逆生埋伏であることが確認された。その後,経過観察中に後続永久歯の萌出に伴い,唇側歯頸部の根面歯質の一部が歯齦上に露出してきた。1年2カ月後,歯牙を抜去したところ解剖学的歯冠形態は上顎乳中切歯の特徴を殆ど具備していた。病理組織学的には,歯銀上に露出していた唇側歯頸部根面歯質に相当する髄腔壁に多量の補綴象牙質が形成されていた。また,根端側の象牙質には吸収像を認め,一部には白亜質様硬組織の新生添加が認められた。本症例の逆生埋伏の直接的な原因は不明であるが,胎生期において何等かの原因で歯芽が位置異常を起し,埋伏した状態で根の形成がある程度進行したと考えられる。その後,永久歯の萌出に伴い,埋伏歯が押され歯根部歯質が吸収するとともに,歯牙の一部が歯齦上に露出したものと推測される。そして,露出根面からの刺激を遮断するためにその部分に相当する髄腔壁に多量の補綴象牙質が形成されたものと考えられる。

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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