抄録
小児歯科臨床において,乳臼歯部のインレー修復は最も多用される歯冠修復法の一つである。2級インレー修復に際して,仮封材の脱落がおこると乳臼歯部の近心移動を惹起し,インレーの装着が不可能になる場合に遭遇することがある。このような事態を防ぐためには,インレー合着時まで咬合圧等によって容易に脱落することのない仮封材の使用が望まれる。また除去に際しては,容易に除去でき,しかも生活歯に用いて歯髄組織に対して為害作用のない仮封材が望ましい。そこで,窩洞内に歯髄の保護とまた仮封材の除去を容易にする目的で,水酸化カルシウム製剤を用いて,その上からコンポジットレジンを用いるインレー窩洞の新たな仮封法を開発した。そして,60歯の乳臼歯部の2級インレー窩洞に本法を応用し観察を行なった。その結果,60例中1例に仮封材の脱落がみられ,4例に一部破折がみられた。脱落した1例は,仮封期間が142日という長期間のものであった。仮封材の除去に際しては,特に困難はみられなかった。また,歯牙及び歯肉には,臨床的不快症状の発現も全くみられなかった。本法は,乳臼歯部のインレー修復の仮封に用いて有効であり,臨床上応用価値を有する方法と判定された。