抄録
乳歯列完成期の唇顎口i蓋裂児について,顎裂を有する上顎歯列形態が下顎歯列に及ぼす影響および咬合の様相を明らかにする目的で本研究を行った。資料は昭和大学口蓋裂診療班で管理されている両側性完全唇顎口蓋裂児および左右側の片側性完全唇口蓋裂児(平均年齢3歳11ヵ月)計40名と対照として,同年齢の健常児40名より得られた歯列石膏模型である。これらより,上下顎歯列形態を3次元的に検索し,以下のごとき知見を得た。
1)歯列形態では,上顎の破裂部を中心とした著しい形態的および機能的異常に起因したと思われる影響が,下顎歯列においても出現しており,主として個々の歯の位置的変化,傾斜などにより,歯列弓全体の大きさの変化および非対称性が認められた。
2)咬合状態では全症例にcrossbiteがみられ,片側性では破裂側に出現する傾向にあった。ターミナルプレーンの状態は,近心階段型を示す症例が多いが,破裂側と非破裂側の差異も大きく,また上下顎の歯冠軸の対咬方向は,前歯部だけでなく臼歯部においても舌側方向へ偏位していた。
3)上下顎歯列の垂直的位羅関係は,唇(頬)側歯頸部最下点間距離において前歯部で変動が大きく,臼歯部でも対咬位置の変位が認められた。
以上のごとく唇顎口蓋裂児では,比較的早期より上顎の形態異常に伴う下顎歯列の変化および咬合の不調和が認められた。