小児歯科学雑誌
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25 巻, 1 号
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  • 宮城 敦
    1987 年 25 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    リン酸酸性フッ化ナトリウム溶液処理(F処理)後,続いて塩化ランタン溶液処理(La処理)するフッ素ーランタンニ段処理法(F-La処理)は,歯質表面に非晶質フッ化ランタンを生成させ,その耐酸性を向上させることが報告されている。本研究は,同処理法の臨床応用の可能性を検討するために,ヒト抜去乳歯エナメル質に施し,酸溶解性試験によってその耐酸効果および処理条件を検索した。また,X線マイクロアナライザーにて酸溶解性試験前後の元素分析を行い,次の結果を得た。
    1)F-La処理を行った乳歯エナメル質は,未処理に比べて6倍以上,F処理単独と比べても2倍以上耐酸性が向上した。
    2)乳歯エナメル質にF-La処理を適用するには,1mol/lのリン酸前処理1分間が必要であった。
    3)F-La処理におけるF処理は3分間,La処理は濃度1%・3分間条件で充分な耐酸効果がみられた。
    4)乳歯エナメル質にF-La処理を施すと,フッ素およびランタンが表面より約15μmの深さまで取り込まれ,酸溶解性試験後も充分残存し,歯質を保護していた。
    5)乳歯エナメル質は永久歯エナメル質よりも約34%溶解性が高いが,F-La処理により同処理を行った永久歯エナメル質と同程度まで溶解性が減少する。つまり,乳歯エナメル質は化学反応性が高いことが再確認された。
  • 第2報 叢生と歯肉炎
    武田 康男, 堀内 信子, 井上 龍彦, 中田 稔
    1987 年 25 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    本研究は, ダウン症候群の乳歯歯列の炎症と局所因子との関連性について検討することを目的とする。ダウン症候群児46名(男児30名,女児16名,年齢13ヵ月から60ヵ月まで)と健常児16名(男児9名,女児7名,年齢24ヵ月から69ヵ月まで)を対象として,歯垢指数(PHP modified methodに準じ),歯肉炎指数(LoeのGingival indexに準じ),叢生度スコア(松本の方法,1980)を求めた。ダウン症候群と対象群の比較,月齢別の各指数の分布状況の検討,3変量間の相関関係を求めた。
    1)ダウン症候群の乳歯列の歯肉炎発症率は,対照群に較べて4倍高く,叢生度スコアは2倍大きい。
    2)ダウン症候群の月齢別歯肉炎指数と叢生度スコアの分布状況は,増齢とともに炎症が広がる傾向を示し,叢生度は逆に小さくなる傾向を示す。
    3)叢生度スコアと歯肉炎,歯垢指数との間には,相関関係は認められない。
    4)歯肉炎指数と歯垢指数との間の相関関係は低い。以上の結果から,局所因子としての歯垢や歯列の叢生とダウン症候群児の乳歯列歯肉炎発症率との間の関連性は少いことが示唆され,その他の局所因子や全身因子との関わりが検討されなければならないと考える。
  • 小池 勝康, 荻原 和彦, 三代 幸彦
    1987 年 25 巻 1 号 p. 18-33
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    成人の歯肉色素沈着については報告が多いが,若年者を対象とするものは乏しい。東京都および埼玉県の保育園児,小学生,中学生,高校生,学生について口腔前庭付着歯肉の褐色色素沈着を調査した。年齢は0~19歳にわたる。
    1)若年性歯肉色素沈着は帯状型で始まり,上,下顎とも左右犬歯間まれに第一乳臼歯間にみられた。
    2)2歳児から現われたが,出現者率は3歳から急増して6歳で約60%に達し,以後ほぼ一定値を維持した。女子は11歳から,男子は14歳から減少し始め,18~19歳で前者は10%以下に,後者は30%以下になった。
    3)多くは上顎から始まり,下顎に及んだ。下顎のみの例は少なかった。
    4)乳歯と永久歯の交換期には,その部に一時的に沈着消退を示す例が多くみられた。
    5)6歳以上では帯状型のほか斑状型(歯根部沈着,歯間部沈着)もみられ,増齢とともに増加した。これらは帯状型色素沈着の消失の過程と思われる。
    6)17歳以下では歯根部沈着が多かったが,18歳では逆に歯間部沈着が多くなった。
    7)最後の色素沈着は,側切歯の歯根部沈着あるいは側切歯と犬歯の歯間部沈着のほか,犬歯の歯根部沈着あるいは中切歯と側切歯の歯間部沈着が主なものであった。
  • 2.乳臼歯2級窩洞側室の深度の影響
    嘉藤 幹夫, 河原 茂, 氷見 雄二, 宮崎 健, 稗田 豊治
    1987 年 25 巻 1 号 p. 34-42
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    有限要素法を応用して,乳臼歯2級窩洞における側室の深さおよび修復材料の違いによる歯質および修復物内の変位や応力を解析検討した。
    乳歯の二次元有限要素モデルは,下顎第二乳臼歯の歯冠部近遠心縦断面を基準とし,窩洞は咬合面と近心面からなる2級窩洞で,コンポジットレジン,銀錫アマルガムおよび金合金インレーの各修復材料を通法により充填した。
    乳臼歯2級モデルは,106個の節点と169個の三角形要素に分割し,変位図および応力図を作図させ,さらに節点の変位量と主要なareaでの相当応力について比較検討した結果,歯質および修復物の変位は荷重負荷部分の近心小窩,近心咬頭頂,近心最高豊隆部,咬合面髄壁と側室軸壁との隅角部および近心歯頸部エナメル質辺縁部に影響が著明であった。修復物の影響による変位は,レジン,アマルガム,インレーの順に低くなった。さらに,側室が深くなるにつれて変位量が減少することを認めた。修復物内の応力は,咬合面部分では,修復材料の種類や側室の深度には,あまり影響を受けないが,その側室部分では,レジン,アマルガム,インレーの順に応力が高くなり,側室が深くなるにつれて,応力は側室歯肉壁部に集中することを認めた。歯質内の応力は,レジン,アマルガム,インレーの順に応力が低くなり,側室が深くなるにつれてその傾向が一層強くなった。
  • 第1報 軟X線切歯側方撮影法および微小移動距離連続記録法の開発とその実験条件の吟味
    斉藤 峻
    1987 年 25 巻 1 号 p. 43-53
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯の萌出機序の研究にあって,最も重視されるべきものは萌出速度の正確な測定方法を確立することである。従来の方法より測定精度の高い方法を開発した。即ち,軟X線切歯側方撮影法と微小移動距離連続記録法の2方法である。前者は彎曲しているラット切歯の側方からの計測を可能にすると共に,基準点の固定化を容易にした。後者はウサギ切歯の萌出速度の微小変化を経時的に連続記録することを可能とし,かつ,呼吸,心運動などの生体機能の変化も併せ考察し得る利点がある。本研究においては,これら新しく開発した2つの方法を適宜応用することによって,分単位から日単位までの萌出速度の測定が可能となった。
    また,造歯組織細胞の増殖の反応性の指標として,片側下顎切歯を切断して(切断側),切断側の萌出速度と切断しない他方の下顎切歯(非切断側)の萌出速度の比を求めた。全身麻酔薬として用いた Pentobarbital sodium, Ketamine hydrochloride, Urethane のうち,前2者はいずれも萌出速度に対して影響を与えなかったが, Urethaneは著明に萌出速度を抑制した。このUrethaneによる萌出速度の抑制は,Urethaneの麻酔作用によるというよりも,麻酔作用量以下で発揮される増殖細胞に対する蛋白合成阻害作用によるものと思惟される。
  • 第2報 軟X線切歯側方撮影法によるラット切歯の萌出・成長に及ぼす細胞増殖抑制薬の影響について
    斉藤 峻
    1987 年 25 巻 1 号 p. 54-61
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    前報において全身麻酔薬として用いたUrethaneが歯の萌出速度に対して著明な抑制効果を示したことより,より詳細に研究すると共に,造歯組織,歯根膜線維の細胞増殖の抑制との関連について, 他の細胞増殖抑制薬, Mitomycin C, Carboquone, 5-Fluoro-uracil, Doxorubicinについて比較検討した。
    Urethaneは用量依存的に萌出速度の抑制が認められた。造歯組織の細胞の反応性はUrethaneにより著しい影響を受けていなかった。Urethane投与による萌出速度の抑制は,投与後の経過日数の増加につれて,漸次対照群の萌出速度へ近づいて行き回復傾向を示した。Mitomycin C, Carboquone, 5-Fluorouracil, Doxorubicinはいずれも切歯の萌出速度を抑制するという点において, Urethane と同様な結果を示した。用量一反応曲線ではMitomycin CとUrethaneは類似しており,両薬物の作用点の類似性が示唆される。これに対して, 5-Fluorouracil の用量一反応曲線はMitomycin C やUrethane とは異なった推移をとり,明らかに作用点の違いを示していた。
    また,これらの薬物による萌出速度の抑制はUrethaneとは異なり,投与後の回復傾向は示さなかった。さらに造歯組織の細胞の反応性は,Urethaneを除いていずれも著しい低下を示し,これらの作用が遅効性であり,細胞増殖に対して可成り強い作用を呈することを示している。
  • 石井 史郎, 小岩井 均, 田口 洋, 野田 忠
    1987 年 25 巻 1 号 p. 62-71
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児歯科医療におけるリコールシステムを円滑に運んでいくために,新潟大学歯学部小児歯科外来の来院患者のリコールの実態について調査を行った。
    対象は,昭和54年9月から昭和59年2月までの4年6カ月間に来院し,リコールシステムにのった患児3559人(男児1907人,女児1652人)である。
    最初に,小児歯科診療録を用いて調査を行った。
    1)初回リコール来院率は82%であった。
    2)治療回数が増えるに従い,リコールに応じる患児の割合が増加していた。
    3)治療への適応状態が良好な患児は,リコールに応じない割合が高かった。
    4)リコール方法の消極法では,積極法に比べ約3倍リコールに応じなかった患児の割合が多かった。
    5)新潟県内では,リコール来院率は通院距離にかかわらず,ほぼ同じ傾向を示した。
    6)保隙装置を装着した患児はリコール来院率が高かった。
    7)全身疾患を有する患児はリコール来院率が低かった。さらに,リコールに来院していない患児1221人を対象としてアンケート調査を行った。
    1)大学病院に行く必要がなくなったという回答が75%以上あり,むし歯の治療が終わり,新しいむし歯がないからというものが最も多かった。
    2)6歳未満の群では,6歳以上の群に比べ,他の歯科医院を受診した患児の割合が高かった。
  • 大竹 幸美, 日置 弘子, 赤沼 克枝, 永井 正志, 富沢 美恵子, 野田 忠
    1987 年 25 巻 1 号 p. 72-89
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    当科の診療形態の特徴は,1.治療に保護者を付き添わせる。2.非協力児に対し抑制装置(レストレイナー)を使用する。3.開口器・ラバーダムの使用を原則とする。以上3つが挙げられる。小児歯科の診療では患者が小児であるため,治療を成功させるためには保護者の信頼と協力を得ることが不可欠である。そこで今回,当科の診療形態が保護者にどのように評価され,また我々の意図がどの程度理解されているのかを知る目的で保護者に対してアンケート調査を行った。
    対象は昭和60年11月より翌年6月までの間に当科に来院した小児の保護者のうち,無作意に抽出した250名である。小児の年齢は1~12歳,治療中群85名,定期診査群165名である。アソケートは, 1)来院の背景, 2)診療形態に対する評価, 3)治療と小児および保護者の関わりについて聞き,以下のような結果を得た。
    1)当科への来院は知人などの紹介によるものが多く,来院前に歯科経験を有する小児は約50%いた。
    2)保護者の付き添いに対する評価は高く,98%がよいと答え,レストレイナー,開口器においても80%を超えたが,ラバーダムは74%と低かった。開口器,ラバーダムはその有効性が十分理解されていないようであった。
    3)治療を繰り返すことにより,小児の不安感や恐怖心が減少する傾向がみられた。また,保護者は小児が泣いても,完全な治療がされることを希望していた。
  • 第1報:辺縁封鎖性と裂溝侵入性
    柏木 伸一郎, 立川 義博, 平野 洋子, 中田 稔
    1987 年 25 巻 1 号 p. 90-99
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    シーラントの予後を左右すると思われる要因の中から,辺縁封鎖性と裂溝侵入性の2因子を評価基準とした実験的研究を行った。すなわち,抜去した第1小臼歯12歯を3群に分け,それぞれ異なる小窩裂溝清掃法を施した。その後,各群の2歯ずつに化学重合型と光重合型の2種類のシーラントを填塞し,計6群の実験群を設定した。これらの試料を,サーマル・サイクリング試験後,色素浸漬し,連続切片を作製した。次に,辺縁漏洩の観察ならびに,辺縁接触角と裂溝開放角の計測を行った。さらに,その切片を0.5%メチレン・ブルー水溶液にて染色し,裂溝侵入性を観察し,定量化を試みた。
    その結果,化学重合型シーラント填塞試料では,エアースケーラー群の辺縁漏洩が多く認められた。またシーラント材の比較では,化学重合型に辺縁漏洩が多かった。辺縁接触角は,清掃法別には差はみられなかったが,シーラント材の比較では,化学重合型の方が大きかった。裂溝侵入性については, すべての群で有意差はなく, またコルベン状裂溝への完全侵入例は皆無であった。しかし,シーラント終末端の形態をみると,光重合型にV字型が多くみられた。
  • 第1報 歯科受診時の小児の行動と情緒安定度
    西野 瑞穂, 有田 憲司, 原田 桂子, 岡本 多恵, 中川 弘, アルバラード グァダルーペ, 佐々木 保行, 鈴木 敏昭
    1987 年 25 巻 1 号 p. 100-108
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    歯科診療室における幼小児の心理的しくみについての科学的実証的研究の第1報として,待合室から治療後退室までの各場面における小児の態度,小児およびその母親の性格と小児の診療室における行動との相関性,治療内容による小児の不快反応の生起率について観察・調査し,分析した。小児とその母の性格検査,待合室から治療後退室までの小児の行動観察は3歳から8歳までの男児7名,女児13名,計20名について調査分析し,治療時の治療内容による不快反応の生起率は3歳から8歳までの男児9名,女児17名,計26名についての観察記録を調査分析した。
    得られた結果は次のとおりであった。(1) 小児の年齢が低いほど保護者への依存度が大きかった。(2)太郎・花子テストによる小児の性格は治療の適応度と相関せず,小児の年齢,性別,祖父母同居の有無,同胞の有無,YG性格検査による母の性格も治療の適応度とは相関しなかった。(3)太郎・花子テストは検査法として不適当であることがわかった。(4)待合室,受付での付き添い依存度,情緒安定度は治療中の様子とは相関せず,治療開始直前の治療台上での医師との応答が治療中の耐忍度と高い相関性を有していた。(5)浸潤麻酔,歯髄処置,電気エンジンによる切削などは高い不快反応生起率を示し,ブラッシング,表面麻酔,口腔内診査などは低い不快反応生起率を示した。
  • 第2報 母親の特性不安と小児の性格との相関性
    金城 聡子, 前田 桂子, 加藤 邦子, 菊地 賢司, 西野 瑞穂
    1987 年 25 巻 1 号 p. 109-118
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    小児の歯科診療時の協力性に影響する要因を検索するための基礎的研究として,母親の性格特性としての不安傾向と小児の性格との間の相関性について調べた。調査対象は徳島大学歯学部附属病院小児歯科を受診した1歳から13歳までの小児70名とその母親70名である。母親の不安の測定は状態・特性不安インベントリー( State-Trait Anxiety Inven-tory,STAI)を用いて行い,小児の性格検査は高木坂本幼児・児童性格診断検査を用いて行った。結果は次のとおりであった。(1)3~6歳の低年齢児群では7~12歳の高年齢児群に比べて,「神経質」,「情緒不安定」,「学校・幼稚園への不適応」を示し,高年齢児群は低年齢児群に比べて「顕示性」が大きかった。(2)祖父母の同居と小児の「依存性」,出生時の父親の年齢と小児の「自制力」,「個人的安定」の間に相関性がみられた。(3)母親の特性不安と小児の「神経質」,「依存性」,「退行傾向」との間に相関がみられ,母親の特性不安の大きい小児については,初診からしばらくの間,特に不安の解消と自主性の向上に努め,社会性を養い,診療に対する協力性を向上させることが大切であることが示唆された。
  • 佐藤 昌史
    1987 年 25 巻 1 号 p. 119-141
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    乳歯列完成期の唇顎口i蓋裂児について,顎裂を有する上顎歯列形態が下顎歯列に及ぼす影響および咬合の様相を明らかにする目的で本研究を行った。資料は昭和大学口蓋裂診療班で管理されている両側性完全唇顎口蓋裂児および左右側の片側性完全唇口蓋裂児(平均年齢3歳11ヵ月)計40名と対照として,同年齢の健常児40名より得られた歯列石膏模型である。これらより,上下顎歯列形態を3次元的に検索し,以下のごとき知見を得た。
    1)歯列形態では,上顎の破裂部を中心とした著しい形態的および機能的異常に起因したと思われる影響が,下顎歯列においても出現しており,主として個々の歯の位置的変化,傾斜などにより,歯列弓全体の大きさの変化および非対称性が認められた。
    2)咬合状態では全症例にcrossbiteがみられ,片側性では破裂側に出現する傾向にあった。ターミナルプレーンの状態は,近心階段型を示す症例が多いが,破裂側と非破裂側の差異も大きく,また上下顎の歯冠軸の対咬方向は,前歯部だけでなく臼歯部においても舌側方向へ偏位していた。
    3)上下顎歯列の垂直的位羅関係は,唇(頬)側歯頸部最下点間距離において前歯部で変動が大きく,臼歯部でも対咬位置の変位が認められた。
    以上のごとく唇顎口蓋裂児では,比較的早期より上顎の形態異常に伴う下顎歯列の変化および咬合の不調和が認められた。
  • 泉谷 明, 武井 勉, 大嶋 隆, 祖父江 鎮雄
    1987 年 25 巻 1 号 p. 142-147
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    スクロースに代わる甘味料として開発されたパラチノースのプラーク形成能をパラチノース含有食品の摂取時刻・量を定めた条件下でヒトを用いて調べた。
    パラチノースの摂取によるプラーク形成能は,スクロースと比べて有意に低かった。また,食品の中に含まれるパラチノース量の増加とともにプラーク形成能は低下した。パラチノースの摂取は唾液中S.mutans数に対して明瞭な影響を及ぼさなかった。
    以上の結果はパラチノースが少なくともスクロースが示す明瞭なプラーク形成能を有さないことを示している。
  • 生野 伸一, 篠田 圭司, 小泉 達哉, 藤居 明範, 伊藤 裕一郎, 祖父江 英侍, 田村 康夫, 近藤 富雄
    1987 年 25 巻 1 号 p. 148-155
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    Rubinstein-Taybi症候群をま手足第一指の幅広い末節,特徴的な顔貌,精神発達遅延,反複する呼吸器感染などを伴った疾患であり,口腔周囲の諸形態についても種々の異常が報告されている。
    今回著者らは,Rubinstein-Taybi症候群と診断された4歳男児を診査し,歯科的分析を行った結果,以下のような所見を得た。
    1)患児は本症候群の主症状・徴候を満たしていた。
    2)歯科的特徴として乳歯萌出遅延,永久歯との交換遅延傾向,小顎症,歯列弓形態異常,交叉咬合,口蓋形態異常,口蓋垂裂が認められた。
    3)歯列弓は上下顎共にV字歯弓で前歯部に叢生がみられたが,齲蝕や歯肉炎は認められなかった。
    4)口蓋は全体に浅く,正中口蓋縫合部が逆V字型に窪んでいた。
    5)レントゲン診査では,トルコ鞍の拡大,手根骨の低石灰化,栂指末節骨の肥大がみられた。
  • 細矢 由美子, 國松 尚美, 古豊 史子, 平田 康博, 古豊 泰彦, 後藤 讓治
    1987 年 25 巻 1 号 p. 156-168
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    長崎大学歯学部病院小児歯科診療室に,昭和58年6月から昭和60年12月までの2年7ヵ月の間に来院した患者の定期診査受診状況を調査し,年度別に比較した結果,下記の結論を得た。
    1)1度でも定期診査に応じた患者の受診率は,3年度の平均値では41.6%であり,2年以上継続して定期診査に応じた者の受診率は21.6%であった。
    2)初診時年齢別定期診査受診率は,低年齢児ほど高く,就学前の者の方が就学後の者より高かった。定期診査に応じず中断した率が最も高かったのは,12歳児と7歳児であった。
    3)来院動機別定期診査受診率は,患者紹介で来院した場合(51.4%)が一番高かった。
    4)主訴別定期診査受診率は,初診時の主訴が歯牙形態異常(62.5%),齲蝕予防(61.1%),腫脹(52.6%)の順に多く,抜歯(14.3%),外傷(22.6%),疹痛(28.1%)の場合は低かった。
    5)初診時の齲歯数は,定期診査に応じず中断した群よりも定期診査に応じた群で多かった。
    6)咬合誘導装置装着患者の定期診査受診率は年々高くなり,60年度では74.5%であった。
    7)全身疾患の有無別には定期診査受診率に差がなかったが,全身麻酔下もしくはSedation下で治療を行った患者の受診率は年々高くなり,60年度では75%であった。
  • 宮崎 健, 河原 茂, 犬石 隆人, 嘉藤 幹夫, 李 亘浩, 稗田 豊治
    1987 年 25 巻 1 号 p. 169-173
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    現在の社会の複雑性を反映して種々の疾病や症候群や新たな疾病が増加してきており,歯科医師が従来の成書にはあまり触れられていない,また専門書にしか記載されていないような種々の先天性症候群の患者に接する機会が多くなっている。このような症候群への対応として,現在ではコンピュータの利用が考えられる。コンピュータ利用は歯学領域での情報記憶,検索,変更,そして追加,いわゆるデータベースの構築として最適で利用価値のあるものである。
    今回はデータベースシステムを用いて小児歯科分野,とくに小児歯科と関係する先天性疾患の診断補助や検索にあたってコンピュータの有益性を種々検討した。このデータベースは複雑なプログラムは特に必要でなく,初心者でも即座に,データ入力,編集,検索,印刷等が可能で,また必要な資料が即座に掌握でき,診断の補助となり得る。
  • 小笠原 正, 笠原 浩, 渡辺 達夫, 伊沢 正彦, 高木 伸治, 広瀬 伊佐夫
    1987 年 25 巻 1 号 p. 174-183
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    先天性赤芽球癆(Josephs-Blackfan-Diamond type) と免疫不全症候群とを合併したきわめて稀な症例に対して,齲蝕治療とその後の歯科的健康管理を行った。
    初診時は8歳で,生後3ヵ月以降,現在まで切れ目なく副腎皮質ホルモン剤を服用しており,精神発達遅滞と著しい発育障害が認められた。
    液血液検査では, 血色素量1 3. 6 g / d l , ヘマトクリット4 1 % で, 貧血状態は改善されていたが, 免疫グロブリンは全クラスとも測定可能量を認めなかった。O K T 3 は9 0 % , O K T 4は35.4%,OKT8は52.2%で,cytotoxic/suppressor T cellが優位であった。
    初診時の主訴は,下顎右側第一大臼歯の感染に起因する自発痛で,他にも治療を要する齲蝕が6歯あった。口腔清掃状態は不良であったが,歯肉および口腔粘膜には著しい病変は認められなかった。精神発達遅滞による不協力が著しかったので,全身麻酔下にて齲蝕治療を行った。その後は,リコール・システムにより歯科的健康管理を行い,良好な経過をみている。
    1年5ヵ月後(9歳10ヵ月)の側貌頭部X線規格写真では,上下顎前歯の歯軸傾斜に関しては,異常が認められなかったが,骨格的には上下顎の劣成長が認められた。手および手根骨X線写真では,骨成熟度の著しい遅れを認めた。1年8ヵ月後(10歳1ヵ月)に行った模型分析の結果,上下顎とも歯列弓幅径は小さい値を示していた。上下顎の劣成長と骨成熟度の遅延には,副腎皮質ホルモン剤の副作用も関与しているものと考えられた。
  • 副島 嘉男, 小笠原 靖, 山田 清夫, 平川 栄二, 本川 渉, 吉田 穣, 隈本 真, 江 永言, 谷口 邦久, 北村 勝也
    1987 年 25 巻 1 号 p. 184-192
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    唾石症は歯科臨床においてしぼしば遭遇する疾患であるが,その多くは青壮年期に見られるのがほとんどで,幼小児に於ける唾石症は少ないようである。今回,我々は幼小児に於ける唾石症を4例経験し,その際得られた各唾石について走査型電顕による微細構造を観察した結果,以下の結論を得た。1.今回我々は6~8歳の幼小児の顎下腺導管内に,唾石を生じた四症例を経験した。2.唾石の走査電子顕微鏡による割断面の観察に於て,4症例の唾石の構造には相互に類似した所見が多数みられた。3.小児の唾石は,文献的に青壮年の唾石と類似した構造が多数見られた。4.小児の唾石の形成に菌様物の関与がうかがわれた。
  • 西田 文彦, 西野 瑞穂
    1987 年 25 巻 1 号 p. 193-198
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    メビウス症候群は,両側顔面神経麻痺および外転神経麻痺を呈する症候群で,しばしば他の脳神経麻痺を合併する極めて稀れな疾患である。われわれは徳島大学歯学部附属病院小児歯科外来で,先天性両側顔面神経麻痺に外転神経および舌下神経麻痺を伴うメビウス症候群の2歳1ヵ月男児例を治療する機会を得,次のような所見を認めた。(1)全身的栄養状態はほぼ良好であるが,体格は小で,左側内反足,下肢の著しい運動発達遅滞が認められた。(2)表情に乏しく,仮面様顔貌を呈していた。(3)左側鼻唇溝は消失し,口裂閉鎖不全が認められた。(4)両側外直筋麻痺による内斜視が認められたが,眼球の上下的運動は制限されていなかった。(5)左側に難聴が認められた。(6)高度の齲蝕罹患状態を示していた。( 7 ) パノラマX 線写真から, 左右下顎永久側切歯の先天性欠如が疑われた。(8)舌は溝状舌を呈し,口腔の大きさに比し相対的に巨舌であった。(9)言葉はなく,精神発達遅滞を認めた。
  • 西田 百代, 道家 臻, 金森 市造, 岡本 誠, 増田 典男, 谷 京子, 杉山 恵子, 祖父江 鎮雄
    1987 年 25 巻 1 号 p. 199-211
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
    障害者歯科医療の需要側の実態を調べる目的で,大阪府下にある障害者のための学齢前施設,養護学校,学齢後の更生施設,授産施設にアンケート調査を行ったところ以下の結果を得た。
    1)歯科検診が行われていたのは学齢前施設78%,養護学校93%,学齢後施設45%で,検診結果の保護者への通知,治療のチェックは学齢後施設以外ほとんどの所で行われていた。
    2)学齢前施設65%,養護学校96%,学齢後施設23%において嘱託医あるいは校医がいたが,そのうち予防活動まで行っていたのは6~7割で,治療に積極的なものは約半数であった。
    3)治療を受ける医療機関として学齢前施設では障害者歯科専門医が多かったが,養護学校,学齢後施設では開業医が多かった。治療を依頼する医療機関または治療してくれる開業医がいるところは学齢前施設74%,養護学校71%,学齢後施設73%であった。
    4)齲蝕歯は学齢前施設では少なかったが養護学校,学齢後施設では5~10本というのが約半数あった。歯科の受診状況は学齢前施設では良かったがそれ以外では全般的に悪かった。5)昼食後の歯磨き及び歯磨き指導はいずれも7~8割は行なわれていたが,清掃状態が比較的良いと回答したのは学齢前施設だけで,それ以外は清掃不良というのが半数以上あった。特に精神薄弱の場合に清掃不良という回答が多かった。
  • 1987 年 25 巻 1 号 p. 212-263
    発行日: 1987/03/25
    公開日: 2013/01/18
    ジャーナル フリー
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