抄録
歯に刺激を加えた場合,どの歯が刺激を受けているかを判断する位置感覚が,歯の交換期にどの様に変化していくかは興味ある問題である.そこで今回は,乳歯歯根吸収および永久歯歯根形成によって位置感覚がどの様に変化するのか,さらに乳歯歯根表面積との関係をも検討した.
検査対象としては,679名(平均8.3歳)の12,315歯で,X-ray像で歯根状態を確認後,20gの垂直圧を歯に加え,どの歯が圧迫されたかを被検児が指で示すことによって答えさせた.また,歯根表面積の測定には,抜去歯100歯を用い,画像解析装置で行い,以下の結論を得た.
1)乳歯,永久歯の各歯群とも近心位の歯ほど位置感覚が高く,遠心位の歯ほど低かった.
2)上下顎別による位置感覚の差はほとんど認められなかった.
3)根吸収度が進行するほど位置感覚が向上した.
4)根形成状態が進行するほど位置感覚が低下した.
5)生活歯髄切断や抜髄など歯髄処置を行った乳歯の位置感覚は,健全歯より高かった.
6)歯根の完成した第一大臼歯では,増齢的に位置感覚が低くなる傾向がみられた.(相関係数上顎0.83,下顎0.88)
7)歯の位置感覚と歯根表面積との間に負の相関係数がみられた.(相関係数上顎-0.94,下顎-0.89)