抄録
乳歯が永久歯より知覚が鈍いという理由を形態学的立場から明らかにすることを目的として,軸索特異蛋白の一つであるニューロフィラメントプロテイン(NFP)に対する抗血清を用いた免疫組織化学的手法により,ヒト乳歯歯髄の神経支配について検索した.
ヒト乳歯歯髄には多数のNFP陽性神経が観察された.しかし,永久歯に比べると疎な神経分布を示し,また乳歯歯髄の象牙芽細胞下神経叢の発達は永久歯のものに比べ劣っていた.象牙芽細胞下神経叢より伸び出したNFP陽性を示す神経線維の中には,
象牙芽細胞層に終止するものもあったが,大部分の神経線維は歯髄・象牙質境を越え,象牙前質に進入していた.さらに象牙質に進入する神経も認められた.象牙前質に進入する神経線維の数は比較的多く,その走行パターンは永久歯のものとほとんど同じであった.しかしながら,象牙前質内で樹枝状に複雑に分枝し,三次元的拡がりを示す神経線維は非常に少なく,しかも象牙質知覚受容に非常に重要な構築物と考えられているmechanoreceptive complexの形成が永久歯より不良であった.乳歯の知覚が永久歯より鈍い形態学的理由として,乳歯に分布する神経線維の数が相対的に少ないこと,および終末形成状態が永久歯に比べ不良であることが考えられた.
また,乳歯は外界の反応に対して不規則第二象牙質が容易にかつ大量に形成されるという特質も乳歯の知覚発現を妨げる要因の一つであると思われた.