抄録
顎骨に生じた嚢胞の開窓療法は,隣在歯を温存しつつ治癒に向かわせる方法として有用である.今回歯性嚢胞に開窓療法を施行し,著しく偏位していた原因歯を萌出し得た症例を経験した.症例は11歳女児で下顎前歯部の無痛性腫張を主訴に紹介され,X線検査により2より4に及ぶ含歯性嚢胞を認めた.
3は歯冠と歯根の1/3が形成され,歯冠を遠心に向け,下顎下縁に沿って嚢胞の底部に存在した.嚢胞により〓の歯軸は圧排傾斜していた.口腔前庭に直径10mmの開窓を施行し,同部に栓塞子を装着した.栓塞子には嚢胞腔内に向け突起をつけ,それに小孔を開け減圧を計った.同時にCを抜去し保隙装置を装着した.開窓後5ヵ月で埋伏していた犬歯は90度歯軸を変え本来の犬歯の萌出部位に移動し,開窓後1年2ヵ月には犬歯の歯冠部は約2/3萌出し,1年8ヵ月後には犬歯は萌出を完了し治癒とした.しかしその後1年3ヵ月で嚢胞の再発をみた.再発した嚢胞はパルチュII法で摘出した.嚢胞壁は病理組織学的検査で重層扁平上皮であった.平成5年3月の時点では犬歯の歯軸の傾斜が見られるものの,嚢胞腔は骨に置換され,経過良好である.これらにより含歯性嚢胞の原因歯が90度回転し,かつ嚢胞の底部にあるといった著しい偏位をみる場合でも,開窓療法により萌出する可能性があることが判明した.また嚢胞の消失後の定期的な観察の必要性も確認された.