小児歯科学雑誌
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断髄後の幼犬乳歯歯髄表層にみられるカルシウムの沈着機序
井口 享
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1994 年 32 巻 1 号 p. 40-54

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抄録

乳歯断髄後の切断部歯髄表層におけるカルシウム沈着の機序を解明するために,断髄処置後の幼犬乳歯の歯髄を組織学的に検討した.断髄後の歯髄を,組織学的特徴により,壊死層,好塩基性層(von Kossa陽性層)および生活歯髄の3層に分類した.
術後1時間より断髄部表層に壊死層が形成され,微小血栓を伴う血管壊死が認められた.壊死状血管の血管腔には,von Kossa染色により黒褐色を呈する粒子状のカルシウムの出現を認め,これらは1時間30分,3時間,6時間と経時的に血管壁から血管周囲組織へと流出,拡散していた.更に,血管外遠隔基質へとカルシウム沈着は広がり,術後12時間では壊死組織直下に好塩基性層を形成していた.術後7日に好塩基性層直下の生活歯髄浅層に線維化が生じ,術後10日から14日においては骨様象牙質が線維組織内に形成され,これらは成長し,術後21日から28日に象牙質橋が形成された.以上より,断髄後のカルシウム沈着の機序は,断髄処置による血管壊死およびこれにより生じた微小血栓による血流のうっ滞による血管透過性の上昇により,血清中のカルシウムの血管外流出と拡散が起こり,これにより好塩基性層が形成されるものと推察された.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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