抄録
上顎乳前歯部唇側傾斜を目的とした矯正力が後継永久中切歯に及ぼす影響を検索した。
本学歯学部附属病院小児歯科外来において,乳歯列期中に動的咬合誘導治療を行った乳前歯部反対咬合を有する小児,男児7名,女児9名,合計16名を対象とした。使用した装置は,舌側弧線装置およびチンキャップで,咬合誘導治療開始年齢は,平均5歳2か月であった。
対象小児の乳前歯部被蓋改善前後の撮影間隔が平均7か月の2枚の側貌頭部エックス線規格写真を用い,各計測項目の変化を調べた。距離項目として,i=SN(上顎の後継永久中切歯切縁からSN平面までの距離)とi=Occ(上顎の後継永久中切歯切縁から咬合平面までの距離)を,角度項目として,SNA,U1-SNと新しく設定したD(後継永久中切歯の傾斜度)を計測した。
結果は,被蓋改善後において,i=SNの増加,i=Occの減少およびU1-SNの増加が認められた(P<0.01)。しかし,SNA,Dにおいては,被蓋改善前後で統計学的有意差は認められなかった。
以上のことより,上顎乳前歯部への矯正力が後継永久中切歯の萌出に大きな影響を与えていないことが示唆された。