抄録
再植後の根未完成永久歯に行った根管処置がその再植歯と歯周組織におよぼす影響を,ビーグル犬の切歯を用い研究した.
左右上顎第二切歯の再植を行い,5週目に右側再植歯の歯髄を除去後,水酸化カルシウムを填塞し実験歯とした.左側再植歯は歯髄を除去せず対照歯とした.臨床観察として対照歯と実験歯の動揺度と歯肉炎症指数の測定,口腔内写真および規格化エックス線写真の撮影を行った.組織観察には,蛍光標識を施した非脱灰研磨標本を作製し,マイクロラジオグラフィー,蛍光顕微鏡法,偏光顕微鏡法により歯とその歯周組織における変化を比較検討した.
1.動揺度および歯肉炎症指数について見ると,再植直後から再植後5週目以前では対照歯と実験歯の間に有意な差はなかったが,再植後5週目の根管処置以後では対照歯の動揺度,歯肉炎症指数は大きく,両者の間に有意な差を認めた.
2.実験歯の歯根膜腔は歯頸部と根尖部で広く,歯根中央部で狭い砂時計状であったが,対照歯では不均一で,機能的な組織形態は消失していた.
3.実験歯では歯根膜線維の再生を確認したが対照歯ではほとんど見られなかった.
4.実験歯では根尖部とその周囲歯槽骨に硬組織の添加が認められたが,対照歯では炎症による吸収が持続していた.以上より臨床的ならびに病理組織学的所見から考えると,再植後5週目に根管処置を行っても,良好な治癒がもたらされることが示唆された.