抄録
床矯正装置による下顎歯列弓側方拡大が生体に対してどのような影響を及ぼすかを明らかにする目的で,床矯正装置(Schwarz appliance)を56日間装着した実験犬と装置を装着しない対照犬について,体重,行動,食欲,糞便などの基礎代謝,血液生化学検査値(15項目),ならびに口腔粘膜への影響について調べた結果,以下の結論を得た.
1.実験犬の体重は,装置装着直後に若干減少したが,その後ただちに回復し,対照犬との間にほとんど差異が認められなかった.また行動,食欲,糞便についても,実験犬と対照犬の間に差異が認められなかった.
2.実験犬の血液生化学検査値は,アルカリフォスファターゼ活性値が正常値の範囲内であったが,装置調整を行った翌日に上昇し,ほぼ1週間で調整前の値に回復した.その他の14項目の検査値も,実験犬と対照犬の間で明らかな差異が認められなかった.
3.口腔粘膜は,実験犬の頬側および舌側の遊離歯肉に軽度の炎症が生じたが,床が接する舌側歯肉に炎症像などは観察されなかった.