2019 年 56 巻 5 号 p. 388-392
抗がん剤による骨髄抑制や造血細胞移植における血球減少は感染症のリスクを高める.細菌感染症,ウイルスおよび真菌感染症はこのような治療中の患児にしばしみられるが,抗酸菌によるものは極めて稀である.一方で,抗酸菌感染症は治療に難渋したときに致死的になるため,十分な知識と適切な対応が必要である.非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria: NTM)は本邦で30種類以上の菌種による感染症の報告がある.遅発育抗酸菌(slowly growing mycobacteria: SGM)と迅速発育抗酸菌(rapidly growing mycobacteria: RGM)のどちらも化学療法や造血細胞移植に関連した感染症として問題となる.SGMはMycobacterium aviumやM. kansasiiなどが起因菌となり,全身播種をきたすことがある.RGMは血液・がんの造血細胞移植関連でみられ,カテーテル関連感染症がほとんどである.菌株はM. chelonae,M. abscessus,M. fortuitumが主で抗生剤感受性は1つ以上ある場合が多い.本邦の小児結核(M. tuberculosis)患者は減少し,現在新規発症は年に100人未満である.しかしながら,海外では小児がんの治療中や造血細胞移植後に結核を発症した報告があるため,治療前のスクリーニングの必要性が議論されている.その治療反応性は良いと報告がある一方で,多剤耐性菌に感染した場合は致死的になることもある.頻度が少ないとはいえ,がん化学療法中や造血細胞移植後の抗酸菌感染症の発症率は一般人口に比べ優位に高く,発熱時の鑑別疾患の一つとして重要である.