2020 年 57 巻 2 号 p. 157-161
症例は6歳男児で咳嗽と呼吸苦を主訴に来院した.コンピュータ断層撮影で前縦隔腫瘤と左胸水貯留が認められ,胸水穿刺検査でTリンパ芽球性リンパ腫と診断された.寛解導入療法を行い寛解に入ったが5コース目の化学療法後の陽電子放射断層撮影にて前縦隔に異常集積が指摘された.前縦隔腫瘍生検によって再発が確認され,染色体検査でt(9;17)(q34;q23)染色体異常が確認された.腫瘍はICE(ifosfamide, cisplatin, etoposide)療法やnelarabineに対して治療抵抗性を示し,骨髄にも浸潤した.非寛解状態でmelphalan 180 mg/m2および全身放射線照射12 Gyによる骨髄破壊的前処置後に臍帯血移植を行ったが寛解は得られず70日目に原病死した.本染色体異常に関連する予後不良な経過を考慮すると,t(9;17)に関与すると考えられる融合遺伝子を同定し,分子標的治療を含めた新しい治療法の開発が求められる.