2020 年 57 巻 5 号 p. 360-365
疫学とは,「健康に関連する状態や事象の集団中の分布や決定要因を研究し,かつその研究成果を予防やコントロールのために適用する学問」と定義されている.がんの疫学研究に用いられる,住民ベースのがん登録(population-based cancer registry, PBCR)は,対象地域における全がん患者を対象として,世界共通のルールを用いて行われていることから,国および地域,性別,年代ごとにがんの発生率や生存率を比較し,自国のがん医療を評価することができる.わが国では地域がん登録として都道府県単位で行われてきたが,2013年に「がん登録等の推進に関する法律」が成立し,2016年に全国がん登録となった.2017年の全国がん登録によると,わが国の小児がん(0–14歳)の罹患数(悪性のみ,上皮内がんを除く)は2,223で,年齢調整罹患率は148.6(人口100万対)である.2018年に世界保健機関でGlobal Initiative for Childhood Cancerが掲げられ,「2030年までに小児がん患者の生存率を少なくとも60%にする」という目標値が設定された.生存率を含めた小児がん対策の進捗をモニタリングするために,PBCRは不可欠である.本稿では,疫学や年齢調整罹患率の計算方法について概説するとともに,国内外で行われている小児がんの記述疫学研究について紹介する.