日本小児血液・がん学会雑誌
Online ISSN : 2189-5384
Print ISSN : 2187-011X
ISSN-L : 2187-011X
ワークショップ2: 小児・AYAがん患者の教育支援: 高校教育
長期療養を余儀なくされた高校生に対する学習支援の現状―大阪府下の一大学病院において
上田 素子坂田 尚己杉本 圭相
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 58 巻 5 号 p. 405-409

詳細
抄録

近年の高校進学率は98%を超えている.しかし,小中学校と違って療養中の教育の保障はない.2015年度には,文部科学省から,長期療養により登校できない生徒への配慮に関する通知がなされているが,未だ対応を行わない高校も多く,学習意欲のある生徒が学習を継続できない例が後を絶たない.

大阪府には,府立高校生に対する学習支援制度がある.制度化された2012年度以降,当科で長期療養が必要となり学習支援の導入を検討した高校生は23名であった.2020年度までに入院した府立高校生11名は,訪問授業をベースに,遠隔授業,授業動画の閲覧等を組み合わせた個別の支援計画に基づいて学習を続け,試験や課題提出による評価を受け,他のクラスメイトとともに進級や卒業を果たした.一方,私立/他県立高校生8名は,支援が得られず,各校が定める欠課数に達すると留年や退学になった.また,コロナ禍の面会制限の影響で,2021年度に入院した4名は支援が得られていない.

当該制度の対象となる府立高校生は,長期療養中も学習を継続し,進級や卒業を達成している.ところが,私立/他県立高校生は,支援が得られず,将来への不安を抱えながら療養生活を送らざるを得ないのが現状である.コミュニケーション環境が充実し,多様な学習支援方法が可能となっている現代を迎え,こうした生徒間格差を是正すべく,早急な制度改革が求められる.

著者関連情報
© 2021 日本小児血液・がん学会
前の記事 次の記事
feedback
Top