抄録
【目的】がん患者における体脂肪量がフェンタニルの経皮吸収量に影響を及ぼすかどうかを検討するため, 体脂肪量の指標として体脂肪率(BFR)および上腕三頭筋下皮下脂肪厚(TSF)に着目し, これらの測定値とフェンタニル皮膚移行率との関連性について検討した. 【方法】対象患者は, がん性疼痛を有し, フェンタニルマトリックス型パッチ(MTパッチ)を初めて使用する入院患者で, かつ文書による本研究への参加同意が得られた患者とした. 各患者のBFRおよびTSFの測定は, MTパッチの初回貼付期間に実施した. BFRおよびTSFの測定には, 体脂肪計およびアディポメーターを用いた. また, 各患者から1枚ずつMTパッチを回収した後, その中に残存するフェンタニル量を高速液体クロマトグラフィーにより測定し, その残存量の値からフェンタニルの皮膚移行率を算出した. 【結果】同意が得られた患者は15名(男性5名, 女性10名)であった. また, 回収された15枚のMTパッチの内訳は12.5mg/h (2.1mg製剤)が9枚, 25mg/h (4.2mg製剤)が6枚であった. 貼付部位は, 胸部あるいは上腕のいずれかであった. BFRおよびTSFは, いずれもフェンタニル皮膚移行率との間に有意な正の相関を示した. 【結論】栄養状態や体脂肪量が低下しているがん患者にDMPが投与されている場合には, 疼痛強度をより注意深くモニターし, 投与量の調節を行う必要があるかもしれない. 今後, 脂肪量の変化を含めた栄養状態および皮膚乾燥に関する詳細な評価を行うとともに, これらの変化がフェンタニル血中濃度に与える影響について検討する必要があると考えられた. Palliat Care Res 2010; 5(2): 206-212