主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:周産期の Pharmacology
回次: 14
開催地: 東京都
開催日: 1996/01/20 - 1996/01/21
p. 149-157
はじめに
早産は未熟児出生の主たる要因であり,子宮収縮抑制剤や,絨毛膜羊膜炎の治療薬である抗生剤の進歩発達は,早産を減少させるうえで大いに役立っているものと確信する。一方,早産児が予後不良であるのは,呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome;RDS),脳室内出血(intraventricular hemorrhage;IVH),壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis;NEC)など,その未熟性に由来する疾患の罹病率が高いことにほかならず,早産児に対し各臓器の成熟を促進させるような方向での治療を行えれば,早産児の予後改善が期待できる。
副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド,コルチコステロイド;CS)が胎児の肺成熟を促進させることが1970年代初めにLigginsらにより報告され1)その後,出生前のCS投与が新生児の罹病率を減少させるとする報告があい次ぎ,切迫早産妊婦に対するCS療法が注目されるようになった2)。しかし,CS療法の有効性には人種差,胎児の性差による違いがあり,また,妊娠中の非常に限られた時期のみで有効であるとの報告もあり3),さらに,CS剤の母体投与に伴う副作用が懸念された結果,切迫早産妊婦に対するCS療法は,意外に産科臨床で普及していないことが明らかにされた4)。
最近,NIHを中心として「胎児の成熟促進のためのコルチコステロイドが周産期の予後に与える効果」をテーマとした大規模な検討会議が実施され,その結果がNIHの統一見解として公表された5)。本稿では,この発表を基に,早産妊婦に対するCSの効果と安全性について述べてみたい。