周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第14回
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
はじめに
  • 桑原 慶紀
    p. 3
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     平成7年1月17日の早朝,被災者のみならず日本全国を震撼させた阪神淡路大震災は未だに記憶に新しい。多くの死傷者が出る惨事の中,小さな生命の誕生が報道された。母の強さ,児の生命力,待った無しの周産期医療など様々に感じるところはあろうが,綿々とした生命の流れに得も言われぬ感動を覚えたのは私だけではないであろう。私は周産期医療に携わってきたことを本当に幸せであると思っている。救われた一つの生命には,その後の長い人生があり,それが幾代となく継承されていくことになる。これが周産期医療の持つ最も大きな意義である。

     平成8年1月20日,21日の両日に開催された第14回日本周産期学会では,「災害と周産期医療」をテーマにワークショップを特別に企画させていただいた。貴重な経験を風化させることなく,明日のために生かせるよう願っている。

     恒例のシンポジウムは「周産期のPharmacology」をテーマとして開催された。これまでにない400名を超える参加者があり,会場の順天堂大学有山記念講堂が狭く感じられるほどであった。本誌に掲載されているように,臨床に直結した内容であり,大いに参考にしていただきたい。

     最後に,本学術集会に御参加の方々,座長,演者の先生方,また,綿密な企画を立てて下さった常任幹事の諸氏に心から感謝申し上げたい。

特別企画:災害と周産期医療
  • 新生児医療
    常石 秀市, 高田 哲, 上谷 良行, 中村 肇, 大倉 完悦, 中尾 秀人, 皆川 京子, 久呉 真章, 石田 明人, 狐塚 善樹
    p. 9-17
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     兵庫県の心臓部を襲った直下型大地震は,150万都市神戸をはじめとした近代都市群を廃墟と化した。多数の家屋倒壊と火災のため5千人以上の命が奪われ,30万人もの人々が住居を失った。尊い犠牲者のなかには,29名の乳児を含む423名もの子供たちがいた。被害をさらに大きくしたのは,ライフラインの寸断と情報,交通網の破綻であった。そのような状況下,兵庫県下のNICUも多大な被害を被りながらも新生児医療を死守すべく奮闘した。受傷した入院患児が1例も出なかったことは,ひとえに新生児医療スタッフの技術と経験の賜物であろう。

     今回,震災後1カ月の時点で兵庫県新生児救急医療システム参加施設ヘアンケートを配布し,被災状況,支援実績,反省点と提言についてまとめる機会を得た。5つの被害甚大施設と4つの周辺支援施設の対応・活動を紹介し,防災対策への提言としたい。

  • 産科医療
    大橋 正伸, 村上 宏, 萬代 喜代美, 望月 眞人, 小林 正義
    p. 19-28
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     大災害時における産科医療がいかにあるべきかを考えるとき,母児を同時に管理しなければならないという産科特有の命題に直面する。また周産期医療のなかでも,新生児医療が限られた患者人ロを対象とした医療体制に立脚しているのとは対象的に,産科ではその数十倍の患者人口を対象とする。

     言い換えれば,災害時の産科医療とは被災地域人口の約1%を占める妊婦のなかから産科学的に異常なものを早期発見して,しかるべき治療を施すことにあるといっても過言ではない。

     本稿では,兵庫県産科婦人科学会が1995年9月に行った「阪神・淡路大震災のストレスが妊産婦ならびに胎児に及ぼした影響に関する疫学的調査1)」の結果に基づいて,大震災による妊産婦と産科医療従事者の被災状況,および産科医療における危機管理のあり方について述べる。

  • 楠田 聡
    p. 29-36
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     1995年1月17日の阪神・淡路大震災は広い地域に多大な被害をもたらしたが,大阪地区では病院機能そのものには影響を受けることはなかった。そこで,大阪新生児診療相互援助システム(NMCS)では,被災地区の新生児医療に対して可能な限りの援助を行った1, 2)。その結果をもとに,集団災害時の周産期医療のあり方,特に近隣地区での援助体制,情報ネットワーク,搬送について検討したので報告する。

シンポジウム A:発達薬理学:胎児・未熟児の薬剤動態の特徴
  • 戸苅 創, 池ノ上 克
    p. 40-41
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     限られた時間で討論を極めるには,「周産期のPharmacology」は,あまりに膨大なテーマである。しかし,この機会に,周産期医療で比較的汎用されている薬物の動態を多角的に学ぶことは決して無駄ではない。それどころか,最新の測定機器や新しい情報の導入よって,たとえ古くより馴染みの深い薬物であっても,それまでとはまったく異なった視点から討論されることに意義がある。その意味で,今回のシンポジウムでは,各々の薬物代謝に造詣の深い専門家に御登場いただけたのは幸いである。ただし,主として物理的,時間的制約から,今回のシンポジウムではとり上げる薬物を限定せざるを得なかったのは残念でもある。

     ところで,今回のシンポジウムは過去の方式といささかその趣を異にする。つまり,前半のシンポジウムAでは解説講演的にお話しいただき,基本的な知識の整理を試みた。その後,後半のシンポジウムBでの各演題ごとの討論に引き続き,総合討論に十分時間を割き,シンポジウムAおよびBの各演者全員に参加していただいて活発に討論を進める形式をとった。したがって,基礎編,応用編,そしてポイントを絞った総合討論という流れで進むことができたのが特徴的であったと思われる。

     その流れの一部を示すと,新生児領域で汎用されている薬物の代表としてのドパミンについて,その血液脳関門通過性の観点からその生理学的な意義,副作用の可能性などについてまず報告があった。次いで,未熟児PDAの閉鎖目的で汎用されているインドメタシンの薬物動態を,主に血中濃度の測定結果より検討していただき,容量依存性の有無,臨床効果と成熟度との関係を中心に,陣痛抑制の目的で母体へ投与された場合の出生児ヘの影響について報告があった。さらに,インドメタシンの胎児への影響についても,シンポジウムBでの演題とも関連して報告があった。抗痙攣剤,向精神薬剤を投与された母体から出生した新生児に対して,どのように対処すべきかは重要な課題であり,汎用されているこれら薬剤についての動態に加え,実際の治療,母乳中への移行の問題などについて報告があった。臓器のうち特に腎臓,心臓に関連した薬剤であるフロセマイド,ジギタリスが投与されたときの臓器の成熟度との関係について報告があった。さらに,インドメタシンを含む各種薬剤を投与された剖検例での病理学的検討がなされた。

  • 宮口 英樹, 村松 幹司, 加藤 稲子, 岡嶋 一樹, 山口 信行, 森川 郁子, 兵藤 潤三, 鈴木 重澄, 小林 正紀, 戸苅 創, 和 ...
    p. 43-51
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     近年新生児,未熟児医療の発達に伴って,心血管系の治療薬としてカテコラミン,ことにドパミン(DA)が汎用されるようになってきている。DAは脳組織内に存在するカテコラミンのなかでは,その含有量が50%以上と最も多く,心血管系,代謝系のみならず,脳内ではニューロトランスミッターとしても重要な役割を担っている1)。脳内でDAがニューロトランスミッターとして働く条件としては,脳外部,ことに血中カテコラミン濃度の影響を極力受けない環境が必要であり,ヒト成人ではDAは血液脳関門を通過しないことはよく知られた事実である2~4)

     一方,血液脳関門は出生時においては,十分には完成されていないとされていること5, 6),DA投与中の早産児では無呼吸発作が少ないとの報告7, 8),DAを投与された新生児において,コントロール群に比較して髄液中DA濃度が有意に高値であったとの報告7),髄液中HVA濃度のみが有意に高値であったとの報告9)がある。これらの報告は新生児期においては,血液中のDAが血液脳関門を通過し,中枢神経系へ種々の影響を与えている可能性があることを示唆している。これに反し,ノルエピネフリンに対する血液脳関門は出生時にほほ完成しているとの報告もある10)

     このようにカテコラミンに対する血液脳関門の完成時期に関してはいまだ議論の余地がある。幼若動物においてカテコラミンの血液脳関門通過性に関する検討は少なく,われわれの知る限りにおいては,幼若動物を使用した新生児期におけるDAの血液脳関門通過性に関する検討を行った報告はみられていない。今日ではカテコラミンは脳内ではニューロトランスミッターとしての役割のみならず,中枢神経系の発育と機能の制御にも関与していると考えられるようになってきており11),もし新生児期においてDAが血液脳関門を容易に通過することが事実とすれば,新生児にDAを投与することは心血管系,代謝系のみならず,中枢神経系に対しても何らかの影響を及ばしている可能性があり,幼若動物におけるDAの血液脳関門通過性の有無を検討することは重要な意義があるものと思われる。

     そこで今回幼若ラットにDAを腹腔内投与し,直接髄液中のDAとその主要な代謝産物の濃度を測定することによって,DAの血液脳関門通過性の有無を検討した12)。また,新生児にDAが投与される症例は仮死児,呼吸障害児であることが多く,これらの児は出生前後の期間などにおいてhypoxiaの状態に,出生後の蘇生時などにおける酸素投与により逆にhyperoxiaの状態となることが多い。低酸素虚血負荷により血液脳関門が破壊されることも知られており13),幼若ラットにおいて低酸素負荷,低酸素負荷後における高濃度の酸素投与が,DAの血液脳関門通過性へ及ぼす影響についても検討を加えた。

  • 佐藤 雅彦, 小口 弘毅, 荻原 純代, 上野 信弥, 山田 俊彦, 野渡 正彦, 蒲原 孝, 松浦 信夫, 天野 完, 井川 未生, 石川 ...
    p. 53-63
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     プロスタグランジン合成阻害剤であるインドメタシンは,1963年にShenら1)が初めて合成し,後にWinterら2)がその抗炎症および解熱作用を報告した。周産期医療においては,1970年代初期にインドメタシンが人および動物で妊娠期間を延長することが証明され3, 4),1976年にインドメタシンによる動脈管開存症(PDA)の薬物的閉鎖効果が初めて報告された5, 6)。その後も,周産期医療におけるインドメタシン治療について多くの報告が認められる7~9)。しかし一方で,周産期母体および未熟児に対するインドメタシン投与により,胎児,新生児への影響が報告され10~14),その使用について適応,投与法,投与量などが見直されている10~14)

     今回われわれは,母体および患児のインドメタシン血中濃度の分析により,未熟児のインドメタシンの薬物動態を検討したので文献的考察と併せ報告する。

  • ―抗痙攣剤と向精神薬―
    磯部 健一, 河田 興, 日下 隆, 石井 真美, 伊藤 進, 大西 鐘壽, 近藤 昌敏, 國方 徹也
    p. 65-75
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     麻薬などの薬物の投与中止により,ある種の重篤な症状をきたすものを離脱症候群(withdrawal syndrome)とよぶ。胎盤を介して母体より移行し,新生児に離脱症候群を発症させる薬物として麻薬が有名であるが,非麻薬性の催眠・鎮静剤でも発症し,その症状は麻薬によるものと類似している。これらの薬物のなかで,妊婦が長期間服用する薬物,特に抗痙攣剤・向精神薬が問題となる。わが国においては,これらの薬物による新生児離脱症候群の症例は大西ら1),飯沼ら2),中根3),近藤ら4)等によって報告されているが報告例も少なく,さらに抗痙攣剤・向精神薬の妊婦への投薬の実態や本症候群の症状とその頻度に関する報告はほとんどなされていない。

     われわれは,平成4年度より厚生省心身障害研究「ハイリスク児の総合的なケアシステムに関する研究」(主任研究者:小川雄之亮教授)において,抗痙攣剤・向精神薬による新生児離脱症候群の管理について全国調査を行ってきた5~7)ので,その成績とわれわれの施設での管理法ならびに抗痙攣剤・向精神薬の薬物動態について報告する。

  • 小松 康宏
    p. 79-86
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     薬物の多くは生体にとって異物の有機化合物であり,体内に入ると酸化,還元,加水分解,抱合などの代謝反応によって構造変換を受け,体外に排泄される。排泄経路は腎臓,胆汁,肺,皮膚などがあるが,このなかでも腎臓からの排泄が重要である。本稿では,腎臓での薬物処理,輸送機構の発達に関して,①腎臓での薬物輸送,処理機構,②腎機能の発達と薬物輸送系,③furosemideとindomethacinを例にとって,周産期における薬物使用の問題点について概説する。

  • 中西 敏雄, 中沢 誠, 寺井 勝
    p. 87-98
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     心筋の発達

     未熟な心筋では,細胞内カルシウム処理を司る細胞内小器官(小胞体)が未発達である1~3)。筋原線維の量も少ない。図1, 2に家兎胎仔における電顕所見を示すが,ヒトでも同様の所見が示されている4)。生化学的にも,家兎胎仔での小胞体の抽出量は成獣の約20%と少なく(表1),小胞体のCa取り込み能も低いことが報告されている5)。未熟な心筋細胞の構造の模式図を図3に示すが,収縮に際し未熟心筋では細胞内からのCa放出が少なく,相対的に細胞外からのCa流入の役割が大きいという特色がある。

     心筋細胞内Ca濃度を蛍光色素を用いて測定した研究では,新生仔に比べ胎仔で細胞内Ca濃度が高いという結果が得られている6)(図4)。細胞内のCa濃度を変化させるために細胞外のCa濃度を高めた実験では,胎仔では収縮力増加は比較的少なく,15mMでプラトーに達し,30mMで逆に収縮力は低下してしまった。一方,新生仔では収縮力増加は胎仔より大きく,高Caでの収縮力低下はみられなかった(図5)。以上の結果は,胎仔では細胞内Ca処理能力が低いため定常状態での細胞内Ca濃度が高く,そのためCaの収縮力増加作用が少ないことを示唆する。また,胎仔ではCa負荷に際し細胞内Ca濃度が上昇して,Caの中毒効果がでてしまったと考えられる。ジギタリスやカテコラミンの効果発現の最終媒介物質はCaであるので,未熟心筋の特徴が,これら薬剤を使用した際にも現れてくる。

  • 中山 雅弘, 荒井 洋, 清水 郁也, 藤田 富雄, 木戸口 公一, 岡本 伸彦
    p. 99-105
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     妊娠と薬に関してはこれまでに数多くの研究がなされてきている。特に,妊娠初期の薬物と催奇形性に関しては動物実験での研究成果がある。しかし,実際に周産期医療・医学の分野で人に対してはどうであるか? 妊娠後半に使われるような薬物の影響はどうか? などに関してはあまり多くの知見は得られていないように思われる1)

     このような観点から,今回は周産期医学に強く関連する薬物投与と胎児・胎盤の異常について,その病理学的所見を中心に述べる。最初に,陣痛抑制剤であるインドメタシン,次いで抗痙攣剤について述べ,習慣性流産に関連する薬物などについて述べる。

シンポジウム B:早産・PROM の治療に関する薬剤
  • 今中 基晴, 中井 祐一郎, 荻田 幸雄
    p. 109-118
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     胎児・新生児の細菌感染は周産期管理上重要な問題で,特に,前期破水(premature rupture of membranes;PROM)とは密接な関連がある。前期破水は早産の主要な原因であり,児の未熟性,子宮内感染や羊水過少といった臨床的問題点を伴う。妊娠を継続する場合,破水後経過時間とともに絨毛膜羊膜炎の頻度が増加するので,上行性感染に対する適切な対処が求められる1)

     従来,上行性感染は抗生物質の母体への経静脈(経胎盤)投与によって予防または治療されてきたが,羊水移行の点で難点があり,臨床的には必ずしも満足すべきものでなかった。

     本研究は,前期破水症例における抗生物質投与とその体内動態を検討し,合理的な抗生物質投与法の確立をめざしたものである。

  • 瓦林 達比古
    p. 119-126
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     妊娠・分娩は生体の生理現象ではあるが,この過程が終了するまでに母体に生じる変化は,女性の一生のなかでも最も激しいものであるといえよう。この,全身にわたってしだいに生じてくる変化は,子宮内の胎児の生育環境を維持し,最終的に分娩へと誘導する。したがって,このような変化は胎児の直接的な生活空間であり,分娩が開始すれば娩出臓器となる子宮に最も強く起こってくるのは当然のことであろう。一方,妊娠末期の陣痛発来機序と同様に,早産陣痛発来のメカニズムも十分に解明されてはいないが,いわゆる未熟児出生の防止のためには,早期に発来した陣痛は抑制しなければならない。

     したがって,切迫早産の薬物療法として,過去,多くの薬剤が臨床応用されてきたが,現在ではその効果や副作用や調節性の面から,カテコラミンβ2-受容体作動薬である塩酸リトドリンが第一次選択薬として広く使用されている。この薬剤の子宮収縮抑制作用は,細胞膜の過分極による自発収縮の抑制や,細胞内cAMPの増加による細胞内遊離カルシウム(Ca)イオンの減少によって発現しているといわれている。しかしながら,この薬剤の陣痛抑制作用には個人差があり,また,長時間の投与時には効果の変動や減弱が観察される。そこで,このような薬物作用の臨床的な問題点を,正常妊娠経過中の子宮筋のカテコラミンβ-受容体の機能的特性変化を明らかにすることによって,生体の適応現象という観点から考察してみた。

  • 根本 荘一, 吉原 一, 島田 信宏, 西島 正博, 佐藤 喜一
    p. 127-134
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     緒言

     塩酸リトドリン(以下リトドリン)は非カテコラミン・アドレナリン作用物質1)で,選択的にβ2受容体に作用し,特に子宮筋に対し強い収縮抑制作用をもっている薬剤である。しかし,弱いながらもβ1刺激による循環系への作用ももっていることが知られている。

     日常臨床で切迫流早産の治療によく用いられるリトドリンが,胎児・胎盤・子宮循環にどのような影響を与えているか2~5),また超音波ドプラ法による血流指標が,この循環変化をどのように反映しているかについてはいまだ十分に解明されていない現状である。

     リトドリンを母獣投与したときの循環変化を調ベ,臍帯動脈,子宮動脈の血流指標6, 7)が子宮臍帯循環をどの程度反映しているかを検討することを目的に,妊娠ヤギ実験モデルを用い研究を行った。

  • 秦 利之
    p. 135-139
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     母体および胎児由来のdehydroepiandrosterone sulfate(DHAS)は胎盤でエストロゲンに変換される。そして,正常妊娠におけるDHASの代謝は非妊婦のそれと比較して著しく充進している1)。妊娠後期において,母体にDHASを投与した場合,血中エストラジオール(E2)濃度が著しく増加することが知られている2)。妊娠羊において,DHAS投与後約30分で母体血中エストロゲン濃度が最高値に達し,その90分後に子宮血流が増加することが報告されている3)。しかしながら,DHASがヒト子宮胎盤循環動態および胎児循環動態に及ぼす急性効果についての報告は認められていない。

     本シンポジウムでは,DHASが妊娠満期の母児循環動態に及ぼす影響について検討することを目的とした。

  • 鮫島 浩, 田中 茂樹, 和田 俊朗, 上塘 正人, 茨 聡, 前田 隆嗣, 松田 義雄, 丸山 英樹, 浅野 仁, 坂本 紘
    p. 141-148
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     硫酸マグネシウム(Mg)は早産や妊娠中毒症に対して長年にわたり使用されてきた。当初,Mgの胎児・新生児に及ばす影響は少ないと考えられていた1, 2)。しかしカルシウムに拮抗する作用を有することから,Mgの薬理作用は生体内で多岐にわたると考えられる。周産期領域でも胎児・新生児に及ぼす影響を再評価する動きがみられるようになった。なかでも低酸素血症や虚血は体内でのカルシウム代謝にいろいろな影響を及ぼすことから,これらのストレスとMgの関係が注目されてきた。1995年,Nelsonら3)は妊娠中のMg投与により,1,500g未満の児の脳性麻痺が減少すると報告した。成獣を用いた動物実験ではMgと中枢神経のNMDA(N-methyl-D-asparate)受容体との密接な関係が示されており,Mgが神経細胞障害を抑制する可能性も示唆されている4)。したがって,低酸素性虚血性障害に及ぼすMgの影響を検討することの意義は大きい。

     そこで,Mgと胎児の低酸素血症との関連性に焦点をあて,動物実験を用いた基礎研究と臨床検討とを行った。

  • 吉田 幸洋, 伊藤 茂, 中村 靖, 三橋 直樹, 桑原 慶紀
    p. 149-157
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     早産は未熟児出生の主たる要因であり,子宮収縮抑制剤や,絨毛膜羊膜炎の治療薬である抗生剤の進歩発達は,早産を減少させるうえで大いに役立っているものと確信する。一方,早産児が予後不良であるのは,呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome;RDS),脳室内出血(intraventricular hemorrhage;IVH),壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis;NEC)など,その未熟性に由来する疾患の罹病率が高いことにほかならず,早産児に対し各臓器の成熟を促進させるような方向での治療を行えれば,早産児の予後改善が期待できる。

     副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド,コルチコステロイド;CS)が胎児の肺成熟を促進させることが1970年代初めにLigginsらにより報告され1)その後,出生前のCS投与が新生児の罹病率を減少させるとする報告があい次ぎ,切迫早産妊婦に対するCS療法が注目されるようになった2)。しかし,CS療法の有効性には人種差,胎児の性差による違いがあり,また,妊娠中の非常に限られた時期のみで有効であるとの報告もあり3),さらに,CS剤の母体投与に伴う副作用が懸念された結果,切迫早産妊婦に対するCS療法は,意外に産科臨床で普及していないことが明らかにされた4)

     最近,NIHを中心として「胎児の成熟促進のためのコルチコステロイドが周産期の予後に与える効果」をテーマとした大規模な検討会議が実施され,その結果がNIHの統一見解として公表された5)。本稿では,この発表を基に,早産妊婦に対するCSの効果と安全性について述べてみたい。

  • 母体投与と新生児期投与
    堀内 勁, 鈴木 啓一, 依田 卓, 笹本 優佳, 亀田 佳哉
    p. 159-169
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     はじめに

     1974年にZuckermanら1)が初めて陣痛抑制のためにインドメタシンを臨床使用した後,相次いでその強力な陣痛抑制作用と合併症が少ないことが報告された2~4)。Moralesら5), Besingerら6)は陣痛抑制効果をβ遮断薬と比較してほぼ匹敵するかそれに優ると報告している。また,β遮断薬にある心筋虚血や肺浮腫などの母体循環系への副作用が少ないことも,インドメタシンが陣痛抑制剤として優れている点であると強調している。

     しかし,その後インドメタシンによる陣痛抑制を受けた母体から出生した児にさまざまな症状が生じることが報告されるようになった7-12)

     一方,わが国においてはインドメタシンの陣痛抑制剤としての臨床研究は乏しく,清水ら13)の妊娠31-37週時の早産予防効果についての検討が1976年に報告されているほか,散見されるにすぎない。

     そこで,インドメタシンの胎児・新生児への影響について,文献的に考察することと,アンケートによるわが国の現状調査について報告する。

  • 池ノ上 克, 戸苅 創
    p. 170
    発行日: 1996年
    公開日: 2024/07/29
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     周産期のPharmacologyというテーマで幅広く活発なディスカッションが行われたことは,大変意義深いことであったと思う。最新の研究を活発に行っておられる最前線の先生方が,それぞれの立場から,発達医学の新しい知見に照らし合わせて,ご講演下さった。このことはわが国の周産期医学の進歩における重要なマイルストーンになった。

     シンポジウムAでは,発達医学の面からみた周産期の主要薬剤の基礎に関する解説的なお話しをしていただき,それぞれの薬剤の位置付けを確認することができた。また,シンポジウムBでは早産,PROMにポイントをしぼって,周産期に使用される可能性の高い薬剤について薬理学的側面がディスカッションされた。

     その結果,産科管理と新生児管理で薬物の使用に関する視点に少なからず異なった土壌のあることが浮き彫りにされたことは,本日の大きなプロダクトの一つであったろうと思われる。

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