主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:生活,環境,薬剤などの母児に及ぼす影響
回次: 23
開催地: 東京都
開催日: 2005/01/21 - 2005/01/22
p. 77-86
はじめに
カンガルーケアは,赤ちゃんを母親の裸の胸に抱いて皮膚と皮膚を接触させる育児方法で,南米コロンビアのボゴダで極低出生体重児の養育に用いられ,今や日本も含め世界中の国々のNICUで実施されるようになってきた1, 2)。カンガルーケアは,濃密な母子接触により,極低出生体重児を感染から守りその生存率を高め,さらに養育遺棄を減らす効果があるといわれている。しかし,カンガルーケアが母子関係に及ぼす影響には,花沢による母親の対児感情評定尺度などによる評価が行われているほかには,実証的な研究がほとんどないのが現状である。大阪府立母子保健総合医療センターでは,1998年9月よりNICUにおいて極低出生体重児を対象にカンガルーケアを実施してきた。本研究はカンガルーケアを体験した児と体験しなかった児について,1歳半の定期検診時の発達検査場面での録画記録から,母子の行動を定量的に分析することで,カンガルーケアの効果の検証を試みた。分析の結果カンガルーケア実施群は,未実施群に比べ,児の泣く割合が低く,微笑みが多く,母親の笑いが多く,否定や疑問の発話が少ないなどの特徴がみられた3, 4)。この結果は極低出生体重児へのカンガルーケアが1歳半での母子関係に影響を及ぼしている可能性を示唆する。さらに,退院2年後に実施したアンケート調査では,入院中の主な出来事として,直接赤ちゃんに関わった事象(初めて赤ちゃんに触った・初めて抱っこした・初めて直接母乳をあげたなど)を,未実施群に比べ実施群の父母ともが強く記憶している割合が高かった。これらのことから,カンガルーケアは両親の赤ちゃんへの情緒的な結びつきを増強しており,本来赤ちゃんの未熟性のために出生時から引き離されていた母子の関係を育むうえで効果的な方法であると考えられる。今回は以上の1歳半の研究に加えて,3歳までの縦断的追跡と正期産児との比較を検討したので報告する。