主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:IUGR
回次: 7
開催地: 東京都
開催日: 1989/01/21
p. 90-100
IUGRの治療法のひとつに母体を介しての栄養剤輸液療法がある1~6)。本治療法の基本は,胎児発育に不足していると推測される栄養素を経母体的に補給することによって胎児代謝が合成系優位ヘシフトするであろうという考えに基づいており,その治療法の評価は主として,母体側の栄養学的変化もしくは最終結果である胎児体重の改善を指標としてきた。
その反面,胎児側における栄養学的変化についての検討は,その研究対象の特殊性により大きく制限を受けてきた。したがって,栄養剤輸液療法が胎児側における糖,脂質,アミノ酸からなる栄養学的バランスをいかに変化させ,胎児の代謝動態をどのように改善するのかについての検討は極めて少ない。
ところで,正常妊娠時には代謝的特徴として高脂血がみられるが,IUGRを伴う妊婦では往々にして低脂血になる傾向があり,また,逆に妊娠中毒症を基礎疾患とするIUGRでは極めて強い高脂血をしばしば伴う。そこでわれわれは母児間における糖,脂質代謝の改善を図れば,その結果として胎児発育が促されるだろうと考えた。
このいわゆるworking hypothesisのもとに,低脂血の治療には静注用脂肪乳剤を,高脂血に対してはヘパリンの投与を行い,その有効性について検討してきた。本稿では,静注用脂肪乳剤を中心とした各種の混合輸液剤投与法を主として胎児側の栄養学的見地より検討し,さらにヘパリン療法およびマルトース療法などと比較検討したので報告する。