抄録
この研究は, 人工妊娠中絶(以下中絶とする)を受ける女性への看護を行う看護者の認識と看護行為の実態を明らかにすることを目的とした.対象は, 中絶に関わった経験のある平均32.7歳の准看護師2名, 看護師2名, 助産師6名の計10名であり, データ収集は, 面接前に記載をする基礎情報調査紙とインタビューガイドに基づく半構成的面接法とした.基礎情報調査紙では, 対象者の年齢・職種・経験年数・中絶の看護マニュアルの有無等を質問した.面接内容は, これまでの中絶を受ける女性への看護の中で対応が困難だった/印象に残った症例とその理由・日常の中絶を受ける女性への看護とその理由・中絶を受ける女性への看護に対する個人的な考え等とした.得られた情報は現象の類似性で分類し, 中絶を受ける女性への看護に対する認識と看護行為の実態を分析した.その結果, 対象者10名は女性の中絶に対する受け止め方や態度等の違いにより『女性を受け入れる姿勢が必要』と『女性の精神面には深く関わらない』という2つの認識を持っていた.中絶を受ける女性に対する日常の看護行為としては, 積極的に気持ちの表出を促す関わりをする対象者(6名)と女性が何か言わない限り積極的に気持ちの表出を促さない対象者(4名)に分けられた.対象者が『女性を受け入れる姿勢が必要』という認識を持つ場合は, 積極的に気持ちの表出を促す関わりを行い, 対象者が『女性の精神面には深く関わらない』という認識を持つ場合は, 積極的に気持ちの表出を促さないようにしていた.このような対象者の中絶を受ける女性への看護に対する認識と看護行為には, (1)看護者が印象に残した中絶の症例, (2)看護者に迷いが生じる女性の反応, (3)「看護者の中絶に対する考えと職業倫理との間の葛藤」と「中絶に対する生命倫理的な問題」の影響が考えられた.