抄録
イネにおけるUVB感受性とUV吸収物質の蓄積との関係を明らかにするため、UVB誘導DNA損傷の1つであるシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)のUVBによる生成量とUV吸収物質の蓄積量との関係について解析した。材料として、UV吸収物質(フラボノイド類、アントシアニン)を多く蓄積している紫イネと台湾の栽培種である台中65号(T-65)との間で戻し交雑を行い、T-65の遺伝的背景を有し、かつ葉内に蓄積されるUV吸収物質含量が2~6倍多い準同質系統(NIL)を用いた。その結果、(1)T-65と比較してUV吸収物質を多量に蓄積しているNILは、UVB付加によって生育は抑制され、可溶性タンパク質、Rubisco含量を著しく低下させた、(2)生育期間中、葉内に存在しているCPD量は、UVB付加(chronic UVB exposure)によって増加したが、その量はNILの方がT-65と比較して常に高い、(3)UV吸収物質の蓄積は短時間のUVB照射(challenge UVB exposure)によるCPD生成量を軽減させた(4)アントシアニン量の蓄積は、Blue/UVAを吸収してCPDを修復する光回復酵素の活性も低下させた、ことが分かった。以上の結果から、UV吸収物質の蓄積は、UVBによって引き起こされる傷害を軽減するためのスクリーニングとして、必ずしも効果的に働いている訳ではないと結論した。