抄録
我々は傷害やTMV感染による過敏感細胞死によって誘導されるタバコペルオキシダーゼtpoxN1の機能を解析している.今までに,この転写産物は傷害を与えると30分から1時間で蓄積し始め,そのレベルが長期間保持されていることを報告した (Sasaki et al. 2002).傷害によるこの転写産物の蓄積は葉脈を含まない葉組織では顕著ではなく,通導組織,特に茎で最も顕著であった.今回, tpoxN1の機能解析を目的としてtpoxN1 cDNAをCaMV35Sプロモーターの20倍強力なプロモーターに連結しタバコに導入したところ,組換えタバコはやや矮化の表現系が見られた.植物体から葉を取り除き1 cm長の茎切片を切り出し,そのまま放置して自然乾燥させ,経時的にその重量を測定すると,組換え体では重量の減少が非組換え体に比較して有為に抑制されていることが分かった.このことはこの組換え体ではtpoxN1由来の高レベルのペルオキシダーゼ活性を介して,傷の修復が促進されている可能性を示唆している.傷口の修復は植物の生存に必要な負のxylem pressure を取り戻すためにも必須であり,本遺伝子が迅速な傷害応答を示すことも合わせて考えると,その機能に興味が持たれる.