抄録
C3植物においても葉以外の緑色器官では必ずしも典型的なC3型光合成が行われておらず、特定の器官(双子葉植物の茎と葉柄、果実を被う器官;双子葉植物の莢、単子葉植物の穎花)ではC4型類似の光合成が行われている。本研究では、イネの緑色器官の光合成様式を明らかにすることを目的に、5種類の光合成器官(葉身、葉鞘、稈、穂軸+枝梗、内外穎)と非光合成器官である根の水溶性タンパク質を二次元電気泳動で比較した。特異抗体を用いたウェスタンブロッティングとN末端アミノ酸配列決定により、9個のカルビン回路関連酵素と14個の一次代謝関連酵素を含む44個のタンパク質スポットを同定し、これらのスポットの相対量を比較した。その結果、葉鞘ではカルビン回路酵素の含量比が葉身を含む他の緑色器官とは異なること、穂軸+枝梗ではRubiscoアクティベース含量が非常に低いことがわかった。また、稈と内外穎は共通の特徴を示し、葉身ではほとんど検出されない葉緑体局在性NADP-リンゴ酸酵素含量が高いこと、葉緑体型カルボニックアンヒドラーゼが検出されないこと、葉緑体に局在するGS2含量が非常に低いことがわかった。これらの特徴は、稈と内外穎ではC4型類似の光合成が行われている可能性を示している。