抄録
植物細胞の液胞は、タンパク質の貯蔵、不要な生体物質の分解、浸透圧の調節など、種々の機能を果たしている。また、成長した細胞では、液胞は細胞内の体積の大部分を占めており、細胞の成長や運動、植物個体の形態形成において重要な役割を担っている。近年になって、蛍光色素による生体染色やGFP融合タンパク質を発現させる手法によって液胞膜の可視化が実現し、液胞膜の複雑な構造とダイナミクスが明らかになってきた。例えばシロイヌナズナの表皮細胞では、液胞膜が液胞内部に陥入することで形成される複雑な液胞膜構造が観察されている。また、タバコBY-2細胞では細胞板形成に伴って多数の細いチューブ状の液胞膜構造が現れることが示されている。本研究では、ヒメツリガネゴケを用いて液胞膜を可視化し、液胞の形態を解析した。われわれは特に、細胞の軸形成や分化への液胞の関与を探るために、ヒメツリガネゴケ・プロトプラストの不等分裂系において液胞の動態を追跡した。この系では高頻度に不等分裂が誘導されるだけでなく、光依存的に分裂方向が制御されるため、このような目的にはとりわけ有効であると考えられる。これらの解析を通じて、細胞の軸形成や分化における液胞の働きについて考察する。