抄録
バクテリアにはN末端のシステイン残基に特有の脂質修飾をうけるリポタンパク質と呼ばれる一群のタンパク質が存在する。リポタンパク質は通常、内膜や外膜に存在し、表層構造の維持や物質輸送などに寄与している。これまでに演者らはSynechocystis sp. PCC6803の光化学系II表在性タンパク質PsbQとPsb27がリポタンパク質であることを明らかにしている。しかしながら、それらのリポタンパク質の修飾構造の詳細は未知であった。そこで本研究では質量分析を用いてPsbQ, Psb27の詳細な修飾構造を解析した。その結果、PsbQはN末端のシステイン残基にジアシルグリセロールとアシル基が結合していることが明らかになった。一方、Psb27はジアシルグリセロールによる修飾のみでアシル基による修飾をほとんど受けていなかった。このような複数の修飾様式があることは他に例がなく、その役割が注目される。さらに、N末端アシル化の生理的な役割を探るため、N末端アシル基転移酵素の破壊株を作製し、表現型を解析した。破壊株はカルシウム欠乏培地中で生育が遅延し、様々な糖に対する感受性が野生株とは異なっていた。これはリポタンパク質のN末端アシル基の欠落によって表層構造や物質輸送活性に変化が生じたためであると考えられる。