抄録
Mg-キラターゼはクロロフィル合成の第一段階であるポルフィリン環へのMg2+の配位を触媒する酵素であり、CHLI, CHLD, CHLHの3つのサブユニットから構成される。Mg-キラターゼの反応にはCHLIによるATP加水分解が必要であり、反応の律速段階であることが知られている。また近年、紅色細菌のBCHLIの立体構造が決定され、AAA+タンパク質の一員であることが明らかになっている。これまで我々は、シロイヌナズナのCHLI1がチオレドキシン(Trx)の標的タンパク質であり、レドックス制御によりそのATPase活性が調節されることを報告している。今回、CHLI1で保存されている4つのCys残基について部位特異的変異体を作製し、そのレドックス制御について調べたところ、C末端側に存在する2つのCys残基の変異体におけるATPase活性のレドックス応答が失われており、酸化状態で既に活性化されていることが明らかとなった。これら2つのCys残基の分子内の配置をBCHIの立体構造をもとに予測したところ、C末端の調節ドメイン内に近接していた。以上の結果から、CHLI1におけるチオレドキシンの標的はC末端側の2つのCys残基であり、これらが可逆的にジスルフィド結合を形成することで、調節ドメインのコンフォメーション変化を誘導しATPase活性を調節しているものと考えられる。