抄録
いくつかのシダやコケはジベレリン(GA)を生産することが知られているが、種子植物と同様のGA受容やその後のシグナル伝達経路の有無については解っていない。我々はシダ(Selaginella moellendorffii:イヌカタヒバ)とコケ(Physcomitrella patens:ヒメツリガネゴケ)のGA受容機構について解析した。イネではGA依存的にGAレセプター(OsGID1)とDELLAタンパク質(SLR1)が結合し、その結果SLR1の分解がF-box タンパク質(OsGID2)を介して引き起こされることによりGA反応が誘導される。
コケにはGID1、DELLA様遺伝子は存在するものの、コケGID1様タンパク質はin vitroでGA結合活性を持たず、Y2Hアッセイ系においてもDELLAタンパク質と結合しなかった。一方シダでは2種類のGID1(SmGID1a, SmGID1b)とSmDELLA1, SmGID2がGAシグナルに関与していると考えられた。SmGID1aはその性質がOsGID1と類似し、イネのgid1変異体を完全に相補した。またSmGID1bはイネのgid1変異体を部分的に相補しGAに対する結合性もOsGID1とは異なりシダ特有のGA受容体であることが推察された。これらの結果は、GAシグナル伝達経路は陸上植物がコケと維管束植物に分岐した後、シダ植物と本葉植物が分岐する以前に誕生したことを示唆している。