抄録
明期中の総光量の1 %以下の微弱な赤色光を暗期開始直後に,または微弱な青色光を暗期終了直前にホウレンソウに照射すると,バイオマスが20 %以上増加した(羽生・庄子,2000)。これは少ない消費電力で植物生産を向上させる画期的な光制御技術であるが,その機構は不明である。我々は,このバイオマス増加は葉の展開促進によるものと推測し,光刺激が葉の展開に及ぼす影響について調査した。栽培期間を通じた暗期開始直後の赤色光刺激または暗期終了直前の青色光刺激によって,バイオマスの増加とともに,葉面積の拡大が観察された。光学顕微鏡で葉の断面を観察すると,暗期開始直後の赤色光刺激によって細胞サイズが増加した。他方,暗期終了直前の青色光刺激では細胞のサイズは変化しなかった。以上から,暗期開始直後の赤色光刺激は葉の細胞サイズを増加させること,また暗期終了直前の青色光刺激は細胞数を増加させることによって,葉の展開を促進することが示唆された。また,暗期終了直前の青色光刺激によって葉厚が増加した。現在,光刺激が柵状組織および海綿状組織の厚さおよび層数に及ぼす影響について解析を行うとともに,シロイヌナズナの光受容体欠損株を用いた解析も行っている。